相続が終わったはずなのに、なぜか気持ちが落ち着かない。
不動産の名義を見るたびに、「これ、どうすればいいんだろう」と考えてしまう。そんな状態に心当たりはないでしょうか。
兄弟や親族と共有になった不動産は、表向きは“みんなのもの”ですが、実際には誰も積極的に動かないまま時間だけが過ぎていくケースがほとんどです。連絡を取るのが面倒だったり、話を切り出すと揉めそうだったり、そもそも関係が疎遠だったり。事情は人それぞれですが、「できれば自分だけ関わらずに済ませたい」と思うのは自然な感覚です。
中には、「自分は住まないし、管理もしない。だったら自分の分だけでも現金にできないだろうか」と考える方もいます。けれど、持分という言葉自体が分かりにくく、調べても専門用語ばかりで余計に混乱してしまう。そんな声もよく聞きます。
そこでまず知っておきたいのが、「共有不動産」と「持分」がどういうものなのか、という基本的な考え方です。
ここを誤解したまま話を進めてしまうと、思わぬ不利な選択をしてしまうこともあります。
この章では、難しい法律の話はできるだけ脇に置きつつ、持分とは何か、何ができて何ができないのかを、実感に近い形で整理していきます。
第1章|共有不動産の「持分」とは?まず押さえる基礎知識
相続で不動産の名義を確認したとき、「共有」という文字を見て初めて状況の重さに気づく方は少なくありません。
自分が住んでいるわけでもなく、使っているわけでもないのに、なぜか責任だけは残っている。そんな感覚を持つ方も多いはずです。
共有不動産・共有持分の基本的な考え方
共有不動産とは、一つの土地や建物を複数人で所有している状態のことです。
相続の場合、兄弟姉妹や親族が同時に相続人になることで、自然と共有になります。
ここでいう「持分」とは、不動産全体に対する割合としての権利です。
たとえば持分2分の1だからといって、家の半分を自由に使えるわけではありません。現物が分かれているわけではなく、あくまで法律上の“数字”としての権利です。
この点を勘違いしたまま話を進めてしまうと、「自分の分なのに、なぜ自由にできないのか」という不満が生まれやすくなります。
相続で共有状態になる典型例
共有不動産が生まれる場面として、もっとも多いのが遺言書のない相続です。
法定相続分どおりに登記をすれば、結果として共有になります。
また、「とりあえず共有で名義を入れておこう」「後で話し合えばいい」といった判断から、深く考えずに共有状態が固定されてしまうケースも珍しくありません。
当初は問題がなくても、時間が経つにつれて意見が合わなくなり、誰も動けなくなる。こうした相談は、弁護士のもとにも数多く寄せられています。
「持分=土地や建物の一部」ではないという誤解
よくある誤解のひとつが、「自分の持分に相当する場所がある」という考え方です。
しかし実際には、「この部屋は自分のもの」「この敷地の一角は自分のもの」というような区別はされていません。
そのため、自分の判断だけで建て替えたり、リフォームしたり、第三者に貸したりすることはできません。
持分を持っているからといって、単独で何でもできるわけではない。この点は、感覚的に理解しづらい部分かもしれません。
持分権者に認められている権利の範囲(使用・収益・処分)
では、持分を持っている人には、どのような権利が認められているのでしょうか。
法律上は、大きく分けて次の3つがあります。
- 使用:他の共有者の権利を侵害しない範囲で、不動産全体を使うこと
- 収益:賃料などの利益を、持分割合に応じて受け取ること
- 処分:自分の持分そのものを売却・譲渡すること
特に重要なのが「処分」の権利です。
不動産全体を売るには共有者全員の同意が必要ですが、自分の持分だけであれば、理論上は単独で売ることができます。
もっとも、これは「何の問題もなく簡単に売れる」という意味ではありません。
次章では、持分だけを第三者に売ることが実際にどういうものなのか、その現実について詳しく見ていきます。
第2章|自分の持分だけを第三者に売却することは本当に可能?
「共有者と話をせずに、自分の分だけ手放したい」
持分について調べていくと、多くの方がこの疑問に行き着きます。感情的にこじれた関係があったり、そもそも連絡を取りたくなかったりする場合、この発想はごく自然です。
結論から言うと、自分の持分だけを第三者に売却すること自体は可能です。
ただし、「可能」という言葉の中身を正しく理解しておかないと、後で思わぬ落とし穴にはまることがあります。
他の共有者の同意は必要なのか
民法では、共有者それぞれが「自分の持分」を自由に処分できるとされています。
つまり、持分の売却について、他の共有者の同意は法律上は不要です。
この点を知って、「じゃあ黙って売ればいい」と思う方もいるかもしれません。
確かに、理屈の上では、共有者に一切相談せずに持分を第三者へ移すこともできます。
ただし、これはあくまで「法律上できる」という話です。実務の世界では、もう少し複雑な事情が絡んできます。
共有者に知られずに売却できるのか
実際のところ、持分売却が行われた時点で、すぐに他の共有者へ通知がいくわけではありません。
登記が変更されても、法務局から自動的に連絡が届く制度はありません。
そのため、「売った瞬間にバレる」ということは通常ありません。
ただし、固定資産税の通知や管理の過程で、いずれ気づかれる可能性は高いと考えておくべきでしょう。
そして何より、第三者が共有者として入り込むという事実は、残された共有者との関係に影響を与えます。
ここを軽く考えてしまうと、後々トラブルが表面化することがあります。
売却の流れと注意点
持分の売却自体は、不動産全体を売る場合と同じように、売買契約を結び、登記を移すという流れになります。
形式だけを見ると、特別難しい手続きではありません。
問題は、「誰が買うのか」です。
一般の個人が、他人と共有になる持分だけを進んで買うケースはほとんどありません。結果として、買主は持分専門の買取業者に限られてくるのが実情です。
この時点で、価格や条件の主導権は、どうしても買主側に傾きがちになります。
「合法だが、簡単とは限らない」という現実
持分の第三者売却は、違法でも裏技でもありません。
ただ、通常の不動産売却とは性質がまったく異なります。
「売れる」という情報だけを鵜呑みにして動いてしまうと、
・想像以上に安い金額を提示される
・急かされるように契約を結ばされる
・後になって不安や後悔が残る
こうしたケースに繋がりかねません。
次の章では、持分だけを売却することで得られるメリットを整理しつつ、「なぜそれでも選ばれるのか」という現実的な理由について掘り下げていきます。
第3章|持分のみを売却するメリット|他人と関わらず現金化できる
持分売却にはリスクがある。
それは事実ですが、それでも「売りたい」と考える人が後を絶たないのも、また現実です。なぜかと言えば、共有状態そのものが、想像以上に負担になるからです。
共有者と話し合わずに済むという大きさ
一番大きなメリットは、やはりここでしょう。
他の共有者と交渉しなくていい。顔を合わせなくていい。感情的なやり取りをしなくていい。
相続後、親族関係が微妙になっているケースは珍しくありません。
「売りたい」と言っただけで揉めることが目に見えているなら、最初から話題に出したくない、という方も多いはずです。
持分売却であれば、少なくとも“売るかどうか”の判断は自分一人で完結します。この心理的なハードルの低さは、数字では測れないメリットです。
とにかく早く現金にできる可能性
不動産全体を売る場合、共有者全員の合意を取る必要があります。
一人でも反対すれば話は進まず、時間だけが過ぎていきます。
その点、持分の売却はスピード感があります。
条件さえ合えば、比較的短期間で現金化できるケースもあります。
「相続税の支払いが迫っている」「今すぐ資金が必要」といった事情を抱えている方にとって、この“早さ”は無視できません。
固定資産税や管理から距離を置ける
共有名義である以上、使っていなくても固定資産税の負担は残ります。
管理の話が持ち上がるたびに連絡が来るのも、少なからずストレスになります。
持分を手放せば、こうした義務や煩わしさからは解放されます。
「関係が完全に切れるわけではない」と言われることもありますが、少なくとも共有者としての責任はなくなります。
将来のトラブルを早めに避けられる
共有不動産の問題は、時間が経つほど複雑になります。
相続人が亡くなれば、さらに相続が発生し、共有者が増える。そうなると、もはや話し合いの場を作ること自体が難しくなります。
持分売却は、そうした“将来の火種”から早めに降りる選択とも言えます。
今は小さな問題でも、何年後かに大きくなる可能性があるなら、距離を取るという判断にも合理性はあります。
気持ちが楽になる、という現実的なメリット
数字や法律の話とは別に、「気が楽になる」という声もよく聞きます。
不動産の存在を思い出すたびに感じていたモヤモヤがなくなる。これは意外と大きいものです。
ただし、こうしたメリットがある一方で、価格面では大きなデメリットを抱えやすいのが持分売却です。
次の章では、その現実――なぜ持分は安く買われやすいのか、について詳しく見ていきます。
第4章|なぜ持分は安く買われる?買取業者の「買い叩き」リスク
持分売却を検討していると、避けて通れないのが「価格」の問題です。
話だけ聞くとスムーズに売れそうなのに、提示された金額を見て言葉を失う。実際、そうした相談は少なくありません。
「こんなに安いものなのか」と思ってしまいがちですが、そこにはきちんとした理由があります。そして同時に、注意すべき落とし穴もあります。
そもそも持分は“普通には売れない”
持分だけを買っても、家に自由に住めるわけではありません。
売却後は、見ず知らずの他人と共有関係になる。その状況を、好んで選ぶ個人はほとんどいないのが現実です。
結果として、買い手は限られ、実質的には持分専門の買取業者しか候補がない状態になります。
市場競争が働きにくい以上、価格が下がりやすいのは避けられません。
業者側が抱えるリスクが価格に反映される
買取業者は、持分を買ったあとに利益を出さなければなりません。
そのためには、他の共有者との交渉、場合によっては共有物分割請求といった手段を取ることになります。
つまり業者は、「時間がかかるかもしれない」「裁判になるかもしれない」というリスクを織り込んだうえで価格を決めています。
その結果、不動産全体の価値と比べると、驚くほど低い金額が提示されることも珍しくありません。
「相場」を知らないと判断を誤る
持分売却には、一般的な不動産のような明確な相場がありません。
だからこそ、「今だけの特別条件です」「他ではこの金額は出ません」といった言葉に流されやすくなります。
中には、相場を大きく下回る金額で契約を急がせる業者も存在します。
一度売ってしまえば、やり直しはききません。ここでの判断ミスは、そのまま損失につながります。
悪質な業者に見られがちな特徴
すべての買取業者が問題というわけではありません。
ただし、次のような対応が見られた場合は注意が必要です。
- リスクやデメリットの説明が極端に少ない
- 契約をやたらと急がせる
- 「弁護士に相談すると話がややこしくなる」と言う
これらは、冷静な判断をさせないためのサインであることもあります。
「早く売れる」と「適正価格」は別の話
確かに、持分売却はスピード感があります。
しかし、早く売れることと、納得できる条件で売れることは別です。
「もう関わりたくない」という気持ちが強いほど、安い金額でも受け入れてしまいがちです。
だからこそ、次に進む前に一度立ち止まって考えることが重要になります。
次章では、持分売却以外にどんな選択肢があるのか、そして弁護士がどこまで関与できるのかについて整理していきます。
第5章|持分売却だけが答えではない|弁護士が示せる別の選択肢
ここまで読むと、「結局、持分を売るしかないのか」と感じるかもしれません。
確かに、それも一つの現実的な選択です。ただ、それしか道がないわけではないという点は、知っておいて損はありません。
売却の前に考えられる法的な手段
共有状態を解消する方法は、持分売却だけではありません。
代表的なのが「共有物分割請求」です。
これは、話し合いで解決できない場合に、裁判所を通じて共有関係を整理する手続きです。
最終的には、不動産を売却して代金を分ける「換価分割」になるケースも多く、結果だけ見れば持分売却と似ているように感じるかもしれません。
ただし、誰が主導権を持つかという点で、大きな違いがあります。
交渉という選択肢が残っている場合もある
共有者との関係が完全に断絶していないのであれば、交渉という手段が有効な場合もあります。
自分の持分を、他の共有者に買い取ってもらうという方法です。
感情的なやり取りが不安な場合でも、弁護士を通すことで、直接やり合う必要はありません。
結果として、業者に売るよりも高い金額で解決できるケースもあります。
価格が「妥当かどうか」を判断する視点
持分売却で一番怖いのは、「本当はもっと良い条件があったのに、それを知らずに売ってしまうこと」です。
弁護士に相談すれば、提示された金額が妥当なのか、他の選択肢と比べてどうなのかを冷静に整理できます。
売る・売らないを決める前に、一度立ち止まるための材料が手に入る。
それだけでも、相談する意味は十分にあります。
弁護士が関与することで変わる立場
個人で買取業者と向き合うと、どうしても立場は弱くなります。
一方で、弁護士が入ると、相手の対応が一変することも珍しくありません。
法的なリスクを前提に話を進めることで、不利な条件を押し付けられにくくなります。
「知らないこと」自体がリスクになる場面だからこそ、専門家の存在は大きいのです。
後悔しないために必要なのは「急がない」こと
持分問題は、放置すれば悪化しやすい一方で、急いで決めるほど失敗しやすい問題でもあります。
売却を決める前に、一度だけでも専門家の視点を挟むことで、選択肢は大きく変わる可能性があります。
次は、この記事全体のまとめとして、持分問題とどう向き合うべきか、そして専門家に相談する意味について整理します。
まとめ|共有持分を現金化する前に、必ず知っておいてほしいこと
共有不動産の「持分」は、確かに自分だけで売ることができます。
他の共有者に同意を求めなくてもいい、という点だけを見ると、持分売却はとても都合のいい解決策に見えるかもしれません。
ただ、実際には――
・買い手が限られる
・価格は大きく下がりやすい
・急がされるほど判断を誤りやすい
こうした現実があります。
一度売ってしまえば、その不動産との関係は取り戻せません。だからこそ、「売れるかどうか」ではなく、「その選択が本当に自分にとって得かどうか」を考えることが重要です。
共有者と関わりたくない、早く整理したい、その気持ちはもっともです。
しかし、持分売却以外にも、交渉や法的手続きを含めた選択肢が残っているケースは少なくありません。知らないまま安く手放してしまうのは、あまりにももったいない判断です。
相続や共有不動産の問題は、感情とお金が絡みやすく、当事者だけで冷静に判断するのが難しい分野です。
「売るべきか、まだ待つべきか」「この金額は妥当なのか」
そうした迷いの段階からでも、状況に応じた現実的な選択肢をご提案しています。
持分をどうするか決める前に、後悔しないための一歩として、専門家に相談してみてください。
それだけで、見える景色が変わることも少なくありません。
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