相続の相談でよく聞くのが、「実家を兄弟で共有しているけれど、自分は住む予定がないので現金で清算したい」「長男が住み続けると言っているが、不動産の持分を安く買い叩かれそうで不安」といった声です。
不動産が絡む相続では、共有状態のままにしておくことがリスクになるため、「代償分割」という方法が選ばれることが少なくありません。代償分割は、不動産を特定の相続人が取得し、その代わりに他の相続人へ金銭を支払う仕組みで、実務上とても使いやすい分割方法です。
ただし、代償分割で必ず問題になるのが、持分をいくらで買い取るのかという「価格」です。
相手が提示してきた金額は本当に妥当なのか、逆にこちらが請求する金額は高すぎないのか。価格の考え方を知らないまま話し合いを進めてしまうと、不利な条件で合意してしまうケースも珍しくありません。
この記事では、相続における代償分割とは何かという基本から、不動産の持分における適正価格の算出ロジック、そして相手から不利な価格を押し付けられないために押さえておくべきポイントを、相続・不動産に精通した弁護士の視点で分かりやすく解説します。
第1章|代償分割とは?共有不動産を清算する代表的な方法
代償分割とは、相続財産の中に不動産があり、それを特定の相続人が単独で取得する代わりに、他の相続人へお金(代償金)を支払う分割方法です。
たとえば実家を長男が相続し、その代わりに次男や長女へ現金を渡す、といった形が典型例です。登記上も所有者が一人になるため、後々の管理や売却がしやすいというメリットがあります。
これに対して、相続の分け方には他にも種類があります。
「現物分割」は、不動産や預貯金をそのまま分ける方法ですが、不動産は簡単に分割できないため現実的でないことが多いです。
「換価分割」は、不動産を売却して現金化し、そのお金を相続人で分ける方法です。公平ではあるものの、「思い出のある実家を売りたくない」「住み続けたい人がいる」といった事情があると選びにくくなります。
こうした中で、実務上よく選ばれるのが代償分割です。
特に、
- 実家に一人の相続人が住み続ける予定がある場合
- 不動産を共有のままにすることに不安がある場合
には、代償分割が現実的な解決策になります。共有状態のままでは、将来売却するときや修繕費を出すときに必ず意見が割れ、トラブルの火種になりやすいからです。
なお、代償分割には「お金をもらう側」だけでなく、「持分を買い取る側」の立場もあります。
買い取る側は「できるだけ安く済ませたい」と考えがちですし、買い取らせる側は「できるだけ高い価格で買い取ってもらいたい」と思うのが自然です。
この立場の違いこそが、代償分割で価格トラブルが起きやすい最大の理由だと言えるでしょう。
第2章|代償分割で必ず問題になる「適正価格」とは
代償分割の話し合いがこじれる原因の多くは、突き詰めると「いくらで持分を清算するのか」という一点に集約されます。不動産そのものを誰が取得するかについては意外とすんなり決まっても、金額の話になった途端に空気が変わる、これは相続の現場ではよくある光景です。
価格でもめる理由はシンプルです。不動産には、誰もが納得できる「ひとつの正解の金額」が存在しないからです。固定資産税評価額、路線価、不動産会社の査定額、ネットで見た近隣相場――どれを基準にするかで数字は大きく変わります。その結果、「そんなに高いはずがない」「いや、安すぎる」とお互いに疑心暗鬼になっていきます。
実際、代償分割の相談では「相手が提示してきた金額は本当に妥当なのか?」という不安を多くの方が抱えています。
買い取らせる側は、「相場より安く見積もられているのではないか」と感じますし、買い取る側は、「相続だからといって高く請求されているのではないか」と疑います。この時点で、感情的な対立が生まれやすくなります。
重要なのは、適正価格は感覚や話し合いだけでは決まらないという点です。「兄弟だからこのくらいでいいだろう」「昔から住んでいるんだから安くしてほしい」といった理由は、法的には根拠になりません。価格には、きちんとした算出の考え方と客観的な基準が必要です。
そして厄介なのが、相手が家族であるという点です。
赤の他人同士なら冷静に交渉できる金額の話も、家族が相手になると「言いづらい」「角を立てたくない」という心理が働きます。その結果、不満を抱えたまま合意してしまい、後になって「やっぱり納得できない」とトラブルに発展するケースも少なくありません。
代償分割における適正価格の問題は、単なる数字の話ではなく、家族関係そのものに影響を与える問題なのです。
第3章|不動産の「評価額」には複数の基準がある
代償分割の価格を考えるうえで、まず知っておいてほしいのが、「不動産の評価額にはいくつも種類がある」という点です。
よくある勘違いですが、不動産の値段は一つではありません。どの評価を使うかによって、同じ不動産でも金額が何百万円、場合によっては何千万円も変わることがあります。
よく使われる評価方法
まず、比較的よく名前が挙がるのが固定資産税評価額です。毎年、固定資産税の納税通知書に記載されている金額で、市町村が課税のために算定しています。手軽に確認できる一方で、実際に売れる価格よりは低めになるのが一般的です。
次に、路線価があります。国税庁が公表しているもので、相続税や贈与税の計算に使われます。道路ごとに価格が設定されており、固定資産税評価額よりは高いものの、これもあくまで税務上の基準であって、市場価格そのものではありません。
実際の売買に近い考え方が、実勢価格(時価)です。不動産会社の査定額や、近隣の取引事例などをもとに算出されます。「今売ったらいくらになるか」という発想なので、感覚的には一番分かりやすいかもしれません。ただし、不動産会社によって査定額に差が出ることも珍しくありません。
さらに、より専門的なのが不動産鑑定評価です。不動産鑑定士が法的な評価基準に基づいて算定するもので、客観性は最も高いと言えます。その反面、費用や時間がかかるため、誰でも気軽に使えるものではありません。
どの評価額を使うべきか
では、代償分割ではどの評価額を使えばいいのでしょうか。
相続人同士の話し合いでまとまる場合、実務上は「路線価をベースにする」「不動産会社の査定を参考にする」など、当事者が納得できる基準を採用することが多いです。重要なのは、どの評価を使うかを曖昧にしないことです。
一方で、話し合いがまとまらず、家庭裁判所の調停や審判に進んだ場合は話が変わります。この場合、裁判所はより客観性を重視するため、争いになった場合には、不動産鑑定評価が用いられることが少なくありません。時間もコストもかかりますが、「誰かに有利・不利にならない」判断をするためです。
実務上よく採用される考え方としては、「ケースに応じて評価方法を使い分ける」というものです。必ずしも最初から鑑定評価を取る必要はありませんが、相手が明らかに低い評価額を前提に話を進めてきた場合、そのまま応じてしまうのは危険です。
特に注意したいのが、「固定資産税評価額で十分だ」「相続なんだから安くて当然だ」といった説明です。一見もっともらしく聞こえますが、その評価額が妥当かどうかは別問題です。評価方法を知らないままだと、知らず知らずのうちに安い評価を押し付けられてしまうリスクがあることは、しっかり意識しておく必要があります。
第4章|持分買取価格の算出ロジック(具体例)
では、代償分割で問題になる「持分はいくらなのか」という点を、もう少し具体的に見ていきましょう。考え方自体はそれほど複雑ではありません。基本となるのは、不動産の評価額に持分割合を掛けるというシンプルな計算です。
基本的な計算式
不動産評価額 × 持分割合 = 持分買取価格
たとえば、不動産全体の評価額が3,000万円で、相続人が2人、持分がそれぞれ2分の1ずつだとします。
この場合、単純計算では
3,000万円 × 1/2 = 1,500万円
が、持分の基準となる金額です。
代償分割では、実家を取得する側が、もう一方の相続人にこの1,500万円を支払う、という形になります。
もちろん、これはあくまで「考え方の土台」です。実際には、評価方法をどうするか、預貯金など他の遺産とのバランスをどう取るかといった点も絡んできます。
ここで、よくある誤解について触れておきます。
まず、「共有の持分だから安くなるのでは?」という考えです。確かに、不動産市場では共有持分だけを売ろうとすると価格が下がることがあります。しかし、代償分割は第三者への売却ではなく、相続人同士の清算です。裁判実務では、原則として不動産全体の評価額を前提に持分割合を掛けて算出する考え方が採られています。「共有だから自動的に値引きされる」というわけではありません。
次に多いのが、「実際に住んでいる人が有利になるのでは?」という疑問です。これも感覚的には理解しやすいのですが、住んでいるかどうかだけで価格が左右されることはありません。居住している事実は、交渉の材料にはなっても、持分の法的価値そのものを下げる理由にはならないのが原則です。
裁判所の実務でも、感情や生活事情よりも、客観的な評価額と持分割合が重視されます。
だからこそ、「何となくこのくらい」「家族なんだから」という話し合いだけで決めてしまうと、後から納得できなくなることが多いのです。持分買取価格は、あくまでロジックに基づいて整理するものだという点を押さえておく必要があります。
第5章|適正価格での代償分割を実現するためのポイント
代償分割で後悔しないためには、「話し合いが始まってから考える」のでは遅いことが多いです。価格の主導権を握るためには、事前の準備がかなり重要になります。
まず用意しておきたいのが、客観的な資料です。
固定資産税の納税通知書や評価証明書、路線価図などは基本として押さえておきましょう。さらに可能であれば、近隣の取引事例や、不動産の概要が分かる資料(登記簿謄本、間取り図など)も手元にあると話がしやすくなります。資料が揃っているだけで、「何となくの話し合い」から一歩抜け出せます。
不動産会社の査定は、使い方がポイントです。
一社だけの査定額をそのまま鵜呑みにするのではなく、複数社の査定を取り、幅を見ることが大切です。不動産会社によっては高めに出すところもあれば、かなり保守的な数字を出すところもあります。その中間あたりを一つの目安として示すと、相手も感情論では反論しにくくなります。
相手から「固定資産税評価額で十分だ」「共有持分なんだからもっと安いはずだ」といった主張が出てくることもあります。その場合、感情的に否定するのではなく、「その評価方法だと、こういう点が考慮されていない」「裁判実務ではこういう考え方が多い」と、根拠を示して整理することが大切です。論点を価格そのものから、評価の前提にずらすイメージです。
何より意識しておきたいのが、感情論に引きずられないことです。
相続の話し合いでは、「昔のこと」「親の気持ち」「兄弟としてどうなのか」といった話が必ず出てきます。それ自体を否定する必要はありませんが、価格の話まで感情で決めてしまうと、後で必ずしこりが残ります。
代償分割は、あくまで財産の清算です。感情とお金の話を切り分けて考えることが、適正価格での合意に近づく一番の近道だと言えるでしょう。
第6章|不利な代償分割を避けるために弁護士ができること

代償分割の話し合いは、「家族同士だから自分たちで何とかできるだろう」と思われがちです。ところが実際には、価格の話が出た瞬間に関係がこじれ、当事者だけでは前に進まなくなるケースが少なくありません。そうした場面で、弁護士が入る意味は決して小さくありません。
弁護士が介入する一番のメリットは、価格の話を冷静に整理できることです。
どの評価方法を前提にするのか、持分割合はどう考えるのか、裁判実務ではどう扱われているのか。こうした点を踏まえたうえで、客観的な価格算定を行います。「高い」「安い」という感覚論ではなく、理由のある数字を示せるようになるのが大きな違いです。
また、交渉の場面では、法的根拠に基づいて話を進められる点も重要です。
相手の主張に対して、「それは裁判所ではこう判断される可能性が高い」「その評価方法にはこういう問題がある」と整理して伝えることで、無理な条件を押し通されにくくなります。感情的な対立を避けつつ、落としどころを探る役割を担えるのも弁護士ならではです。
話し合いで解決しない場合には、家庭裁判所での調停や審判に進むことになります。この段階になると、主張や証拠の出し方一つで結果が大きく変わることもあります。弁護士が代理人として対応することで、手続の負担を減らしつつ、不利な判断を受けるリスクを抑えることができます。
代償分割では、「思っていたより多く払わされてしまった」「後から考えると、安く買い叩かれていた気がする」といった後悔の声も少なくありません。
こうした事態を防ぐためにも、早い段階で専門家の視点を入れることが、結果的に一番のリスク回避になると言えるでしょう。
まとめ~丸の内ソレイユ法律事務所にご相談ください~

代償分割で一番重要なのは、やはり「適正価格」です。
評価方法を知らないまま話し合いを進めると、知らず知らずのうちに不利な条件を受け入れてしまうことがあります。
相続は、時間が経つほど感情が絡み、解決が難しくなりがちです。だからこそ、早めに専門家に相談し、冷静な視点を入れることが、無用なトラブルを避ける近道になります。
代償分割の金額に納得できない、相手の提示額が妥当か分からない、そもそも何を基準に考えればいいのか迷っている――。そうした段階でも構いません。
弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所の初回相談では、状況を整理し、考え方の方向性をお伝えしています。無理に手続きを進める必要はありませんので、まずは一度ご相談ください。
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