お問い合わせ アクセス 資料ダウンロード

コラム

実家に居座る共有者に退去を求められるか?「家賃相当額」の請求(不当利得返還請求)

親が亡くなり、名義の書き換えや遺産分割の話し合いが進んだ後も(あるいは話し合いがまとまらないまま)、実家には兄弟のうち一人だけがそのまま住み続けている。こうした状況は、実は決して珍しいものではありません。もともと同居していた、仕事や生活の拠点がそこにある――理由はいろいろあるでしょう。しかし、別の場所で暮らす共有者にとっては、時間が経つにつれて違和感が大きくなっていくものです。

「自分は相続人なのに、実家は一度も使えない」「固定資産税の請求(連帯納付義務)だけは回ってくるのに、住んでいるのはあの人だけ」。そんな思いが頭をよぎるのは、ごく自然な感情です。むしろ、そう感じない方が不思議かもしれません。けれども、この問題を感情だけでぶつけても、状況が好転することはほとんどありません。

相続した不動産が共有になった瞬間、そこには思っている以上に複雑なルールが絡んできます。誰がどこまで使っていいのか、使えない人は何も言えないのか。共有不動産は、一見すると平等に見えて、実際には不公平感が生まれやすい落とし穴を抱えています。 そして何より重要なのは、「できること」と「できないこと」が、改正民法を含む法律によってはっきり線引きされているという現実です。退去を求められるのか、家賃のようなものを請求できるのか。それとも我慢するしかないのか。答えは一つではありませんが、知らずに放置してしまうと、時効などの関係で不利な立場に追い込まれてしまうことも少なくないのです。

もくじ

相続した実家を「一人で使い続ける共有者」は合法なのか?

共有名義の不動産とはどういう状態か

相続が発生し、遺産分割が終わるまで(あるいは分割の結果として)、不動産が「共有名義」になることがあります。これは、一つの不動産を複数人が持分割合に応じて所有している状態です。登記簿上は全員が所有者ですから、誰か一人の独断で扱えるものではありません。

ここで多くの人が誤解しがちなのが、「持分を持っている=自分の持ち分の範囲(例えば1階だけ、あるいは半分だけ)を自由に使える」という発想です。法律上、共有者は「不動産の全部について、その持分に応じた使用」ができると定められています(民法2491項)。つまり、持分がわずかであっても、家全体を出入りし、使用する権利自体はあるのです。

しかし、これは「自分勝手に独占していい」という意味ではありません。特定の共有者が独占的に使用する場合、他の共有者に対して、持分に応じた「対価(家賃相当額)」を支払う義務があることも、法律で明文化されています(民法2492項)。この「使う権利はあるが、タダで独占する権利はない」というズレが、後々のトラブルの火種になります。

共有者の一人が住み続けるケースはよくある

現実の相続では、共有者の一人が実家に住み続けるケースは珍しくありません。典型的なのは、親の生前から同居していた子どもです。介護や生活の拠点としてそこにあった場合、相続後もそのまま住み続けるのは自然な流れに見えるでしょう。

また、他の相続人はすでに持ち家があり、実家を使う予定がないという場合も多いです。こうした事情が重なると、「住んでいる人がそのまま使い続ける」状態が固定化し、住んでいる側も「今まで通り住んで何が悪い」という心理になりがちです。

しかし、相続によって「親の所有物」から「共有物」へと法律上の性質が変わった以上、たとえ以前から住んでいたとしても、他の共有者の権利(経済的な価値)を侵害している可能性があるという視点を忘れてはいけません。

居座り=違法ではない?よくある誤解

「勝手に住んでいる=不法占拠」ではない理由

実家に一人だけ住み続けている共有者を見ると、「これは不法占拠ではないのか」と感じる方は少なくありません。しかし、法律の世界では、その感覚がそのまま通用するわけではないのが現実です。

共有者である以上、その不動産を使用すること自体は認められています。たとえ他の共有者の同意を明確に得ていなかったとしても、共有者の一人が住んでいるというだけで、直ちに違法になるわけではありません。第三者が無断で住み着いている場合とは、前提がまったく異なるのです。

このため、「出て行ってほしい」と思っても、いきなり退去を求めたり、鍵を替えたりすることはできません。共有関係が続いている限り、法律上は強制的な排除が認められにくい構造になっています。この点を知らずに行動してしまうと、かえって自分が不利な立場に立たされることもあります。

しかし「無償で独占使用」できるわけではない

だからといって、共有者の一人が何の制限もなく、タダで実家を独占できるわけではありません。ここで重要になるのが、20234月に施行された改正民法です。

新設されたルール(民法2492項)では、「共有者の一人が単独で共有物を使用する場合、他の共有者に対し、その持分に応じた対価を支払う義務を負う」ことが明確に定められました。 つまり、「住み続ける権利はあるが、タダで独占するなら、他の共有者の持ち分に相当する『家賃』は払いなさい」ということが、判例だけでなく「法律」としてハッキリ決まったのです。

居住自体が直ちに違法(不法占拠)にならなくても、「無償で使い続けてよいかどうか」は全く別の問題。この法的根拠があるからこそ、私たちは「家賃相当額」を堂々と請求できるのです。

家賃を請求できる?不当利得返還請求の考え方

不当利得返還請求とは何か

「家賃を払ってもらうことはできないのか」。共有不動産の居座り問題で、最も多く聞かれるのがこの疑問です。その答えを導き出すのが、「不当利得返還請求」という法的な仕組みです。

これは、正当な理由なく利益(住居の確保)を得ている人が、その分だけ他人に損(不動産を利用できない不利益)をさせている場合に、「その利益を返しなさい」と求める権利です。 実家に住み続けている共有者は、本来払うべき家賃を免れて利益を得ています。一方で、他の共有者は自分の持ち分を使えず、損をしています。この不公平を是正するために、金銭での支払いを求めることができるのです。

請求できる金額の計算ルール

不当利得として請求できるのは、感情的な金額ではなく、客観的な「家賃相当額」です。 ただし、注意が必要なのは「請求できるのは自分の持分割合の分だけ」という点です。

計算例:

  • 実家の家賃相場:10万円
  • あなたの持分:2分の1
  • 請求できる月額:5万円

このように、持分が全額ではないことを理解しておくことが、現実的な解決に向けた第一歩となります。また、ここから固定資産税の負担分などを清算する実務的な調整も発生します。

過去分は「5年」がひとつの区切り

「過去数年分をまとめて請求したい」というご希望も多いですが、これには消滅時効という期限があります。現在の民法では、不当利得返還請求権は原則として「権利を行使できると知った時から5年」で時効にかかります(民法166条)。

さらに実務上の注意点として、親と同居していた兄弟がそのまま住んでいる場合、裁判所は「遺産分割が終わるまではタダで住んで良いという暗黙の了解(使用貸借の推認)があった」と判断する傾向があります。この場合、「請求の意思表示」をした時点からしか家賃が発生しないリスクもあります。「そのうち言えばいい」と放置せず、早めに内容証明郵便などで「今後は家賃を請求する」という意思表示を記録に残しておくことが、非常に重要なのです。

不当利得返還請求が認められるケース・認められないケース

請求が認められやすい具体例

不当利得返還請求は、単に「誰かが住んでいる」だけで自動的に認められるわけではありません。実務上、認められやすいのは以下のような「独占使用」の実態があるケースです。

●他の共有者を事実上排除している

玄関の鍵を替えたり、他の親族が立ち入ることを拒絶したりして、実家を自分一人(または自分の家族だけ)の支配下に置いている場合。

明確な合意がない

「タダで住んでいい」という書面や口約束がなく、他の共有者が早期に「賃料を支払え」または「出ていけ」と意思表示をしている場合。

居住以外の利用を妨げている

あなたが「実家を売りたい」「他人に貸したい」と提案しても、居住を理由に拒否し続け、結果としてあなたが持分に応じた経済的利益を全く得られない状態が続いている場合。

請求が難しくなるケース

一方で、法的には「正当な理由がある」と判断され、請求が難航するケースもあります。

「使用貸借の推認」というハードル

判例では、子が親と生前から同居していた場合、親の死後も「遺産分割が終わるまでは、タダで住んで良いという暗黙の合意(使用貸借)があった」と推測される傾向があります。この場合、親が亡くなった直後まで遡って請求することは難しく、「請求を明確に突きつけた時点」からしか家賃が発生しない可能性があるため、早期の通知が鍵となります。

●黙認の期間が長すぎる場合

相続から何十年も異議を述べずに放置していた場合、「今後も無償で住み続けることを認めていた(黙示の承認)」と判断され、過去分の請求が否定されるリスクがあります。

●固定資産税や維持費の負担がある場合

住んでいる共有者が固定資産税や修繕費を全額支払っている場合、その支出は当然、請求できる家賃から差し引かれます。たとえば、請求額が月5万円でも、相手が払っている税金のあなたの負担分が月1万円あれば、実際の受取額は4万円になります。

退去を求めることはできるのか?

原則として「退去請求」はハードルが高い

「家賃を払わなくていいから、せめて出て行ってほしい」。そう思うのは自然な感情ですが、共有不動産の実務において、一方的な退去(明渡し)請求が認められるケースは極めて限定的です。

なぜなら、各共有者は「持分の割合に関わらず、不動産全体を使用する権利」を持っているからです(民法2491項)。 たとえあなたが持分の過半数(2分の1超)を持っていたとしても、現に住んでいる共有者に対して「自分たちの決定に従って出て行け」と当然に求めることはできません。相手もまた、正当な権原に基づいてそこに留まっているとみなされるため、賃貸借の契約解除や、赤の他人の不法占拠を排除する場合とは、法的な難易度が全く異なります。

例外的に退去や明渡しが問題になる場面

もっとも、どんな場合でも退去を求められないわけではありません。現実的な解決策として、以下の2つのルートが検討されます。

●共有物分割請求による「強制売却」

これが最も現実的な「出口」です。共有関係を解消するために裁判を起こし、不動産を競売にかける(換価分割)、あるいは特定の共有者が買い取る手続を進めます。競売になれば、落札者(新しい所有者)には共有者としての権利がないため、居座っている人は法的に立ち退かざるを得なくなります。

●著しく不当な態様での占有

他の共有者の立ち入りを完全に拒絶し、話し合いを拒み、さらには建物を損壊させるなど、使用の態様が著しく不公平で、他の共有者の「管理権」を侵害していると認められる場合です。改正民法では、共有物の適切な管理が妨げられている場合に、裁判所を通じて管理人の選任を求めるなどの対抗策も整理されました。

いずれにしても、「出て行ってもらう」ことを直接のゴールにするのではなく、「共有関係を解消するプロセス(分割請求)」の結果として退去に至る、という戦略的な視点が欠かせません。

実務でよく使われる3つの法的対抗手段

① 不当利得返還請求(「住むなら払え」という経済的圧力)

居座り問題への対応として、実務でまず検討されるのが不当利得返還請求(家賃相当額の請求)です。 2023年の改正民法により、「独占的に使用する共有者は、他の共有者に対価を支払う義務がある」ことが法律に明記されました。これにより、「親族だからタダでいいはず」という言い逃れは法的に通用しなくなっています。

この請求の最大のメリットは、相手に「住み続ける限り、毎月固定費が発生する」という現実を突きつけられる点です。これが呼び水となり、「そんなに払うなら、あなたの持分を買い取る」あるいは「家を売って現金を分けよう」といった、根本解決に向けた話し合いが動き出すケースが多いのです。

共有物分割請求(共有関係を終わらせる切り札)

共有状態を強制的に解消するための手続です。話し合いがまとまらなければ、裁判所に分割を申し立てることができ、最終的には以下のいずれかの着地点を目指します。

●現物分割

土地を分筆するなど物理的に分ける方法ですが、建物(実家)がある場合は困難です。

●代償分割

住んでいる共有者が、あなたの持分を「適切な価格」で買い取る方法です。

●換価分割

不動産を売却して現金で分ける方法です。任意売却が成立しない場合は、裁判所による「競売」が行われます。

特に「競売」になると、市場価格より安く買い叩かれるリスクがあるため、居座っている共有者にとっても不利益が大きくなります。このリスクを双方が正しく理解することが、早期の合意(任意売却や買い取り)を引き出す強力なフックとなります。

調停・訴訟における「出口戦略」

話し合いが平行線の場合、裁判所の手続きを利用します。 ここで重要なのは、単に「争う」ことではなく、「裁判官や調停委員を介して、冷静な落としどころを見つける」ことです。

特に、遺産分割が未了の場合は家庭裁判所での「遺産分割調停」、すでに共有登記が済んでいる場合は地方裁判所での「共有物分割訴訟」となります。どちらの手続が最適かは、相続の進捗状況によって異なります。専門家が介在することで、感情のもつれを「法的評価と数字」に置き換え、親族間の修復不可能な決裂を防ぎつつ、権利を確実に回収することが可能になります。

感情論で動く前に知っておくべき重要ポイント

兄弟・親族間トラブルは長期化しやすい

相続に絡む問題の中でも、親族同士の不動産トラブルは特に長期化する傾向があります。「家族なのだから話し合えばわかるはず」という甘い期待が、逆に「裏切られた」という強い不信感に変わり、感情の火に油を注いでしまうからです。

一度こじれると、当事者同士では「出て行け」「昔の苦労を知らないくせに」といった過去の恩讐に話がすり替わり、本質的な解決(持分の整理)が数年単位で停滞することも珍しくありません。この「時間のロス」は、建物の老朽化やさらなる数次相続(他の兄弟の死亡)を招き、問題をより深刻化させます。

証拠・主張の整理が結果を左右する

法的な手続において最も重要なのは、強い感情ではなく客観的な事実です。不当利得返還請求などを有利に進めるためには、以下の整理が欠かせません。

●使用実態の記録

誰がいつから占有し、他の親族がどう排除されているか(写真、メール、日記など)。

●費用の負担証明

固定資産税、修繕費、管理費の領収書や振込記録。

●合意の有無

過去に「無償でいい」と言ってしまったことはないか、逆に「家賃を払え」といつ伝えたか。

特に「家賃を請求する」という意思表示をいつ行ったかは、時効を止める上でも極めて重要です。思い込みで動く前に、これらの事実を一つひとつ整理することが、あなたの正当な権利を守る唯一の手段となります。

まとめ

居座り問題は、「家族のことだから」と一人で抱え込み、時間が経つほど解決が難しくなります。法律は、不公平を是正するための仕組み(不当利得返還請求や共有物分割請求)を整えており、特に最新の法改正はその流れを後押ししています。

大切なのは、現状を正確に把握し、法的な選択肢を知ることです。

早期に専門家を交えることで、感情のもつれを「数字と論理」に置き換え、円満かつスピーディーな解決への一歩を踏み出すことができます。まずはあなたの現在の状況をお聞かせください。

弁護士法人 丸の内ソレイユ法律事務所では、相続や不動産の問題について、初回60分の無料相談を実施しています。下記リンク先の問い合わせフォームから、お気軽にご相談ください。

>>弁護士費用はこちら

関連記事

RETURN TOP

初回相談60分無料

営業時間:平日9:00~20:00

03-5224-3801