相続した不動産が「共有名義」のまま、何年も放置されていませんか。
売るにも売れず、使うにも使えず、話し合いを持ちかけても相手は無反応、あるいは感情的に拒否するばかり──。共有不動産の問題は、当事者同士の話し合いだけで解決することが難しく、時間が経つほどこじれていく傾向があります。
「もう話し合いでは無理だ」「裁判になってもいいから、この共有状態を終わらせたい」
そう考え始めたとき、現実的な選択肢となるのが共有物分割請求です。共有物分割請求とは、裁判を通じて不動産の共有関係を強制的に解消する法的手段であり、相手の同意がなくても進めることができます。最終的には競売による売却が命じられるケースもあり、まさに“最後の切り札”といえる方法です。
もっとも、共有物分割請求は強力である一方、手続や流れ、メリット・デメリットを正しく理解せずに進めると、思わぬ不利益を被ることもあります。費用や期間、競売価格の現実、親族関係への影響など、覚悟すべき点も少なくありません。
この記事では、共有物分割請求とは何かという基本から、裁判でどのように不動産の共有状態が解消されるのか、訴訟から競売までの全手順を具体的に解説します。
「もう後戻りはしない」「法的にきっちり決着をつけたい」──そんな強い意思を持つ方に向けた内容です。
共有物分割請求とは?【結論:共有は裁判で終わらせられる】
結論から言ってしまうと、不動産の共有状態は裁判で終わらせることができます。
話し合いがまとまらないからといって、共有を一生続けなければならないわけではありません。
その根拠になっているのが、民法256条です。
この条文では、「共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる」と定められています。期間の制限もなければ、特別な理由も不要です。相続してから何年経っていようと、他の共有者が反対していようと、分割請求そのものを止められることはありません。
ここが重要なポイントですが、共有物分割請求は相手の同意を前提としない権利です。
「売りたくない」「話したくない」「今は忙しい」
こうした相手の事情や感情は、法的には分割請求を拒む理由にはなりません。話し合いが通じない相手に対してこそ意味を持つ制度だと言えます。
実務上、共有物分割の進め方には段階があります。
まずは当事者同士での話し合い(協議)。それでも折り合いがつかなければ、家庭裁判所での調停を利用することもあります。ただし、調停はあくまで話し合いの延長であり、相手が応じなければ成立しません。
最終手段が、共有物分割請求訴訟です。
訴訟に入れば、もはや相手の合意は不要で、裁判所がどのように共有関係を解消するかを判断します。必要であれば、不動産を競売にかけて強制的に売却し、代金を分けるという結論に至ることもあります。
「話し合いはもう限界だ」と感じたとき、この選択肢があることを知っているかどうかで、出口の見え方は大きく変わります。
共有物分割の3つの方法
共有物分割請求を裁判で行うと、「どうやって共有を解消するか」を最終的に決めるのは裁判所です。
当事者の希望は考慮されますが、必ずしも思いどおりになるわけではありません。裁判所が選ぶ分割方法は、大きく分けて3つあります。
⑴ 現物分割
現物分割とは、不動産そのものを物理的に分ける方法です。
たとえば、1筆の土地を2筆や3筆に分筆し、それぞれを単独所有にするケースがこれにあたります。
理屈の上では一番わかりやすい方法ですが、実務で採用されることはほとんどありません。
土地の形が不整形になったり、接道条件を満たさなくなったりすると、かえって資産価値が下がってしまうからです。建物が建っている不動産であれば、そもそも分けようがありません。
「きれいに分けられるならそれに越したことはない」という扱いで、現実には例外的な方法と考えておいた方がいいでしょう。
⑵ 代償分割
代償分割は、共有者のうち1人が不動産を取得し、他の共有者に対して持分に応じた金銭を支払う方法です。
たとえば、長年その家に住んでいる相続人が不動産を取得し、他の相続人には現金を渡す、という形です。
この方法が成立するかどうかは、はっきり言って資金力次第です。
不動産の評価額が高ければ、その分だけ支払う金額も大きくなります。ローンを組めるか、現金を用意できるかが現実的なハードルになります。
もっとも、相続不動産の共有問題では、最も現実的で穏やかな解決方法でもあります。
競売を避けられ、不動産も第三者に流れません。裁判でも、代償分割が可能であれば優先的に検討される傾向があります。
⑶ 換価分割(競売)
換価分割は、不動産を売却して、その売却代金を共有者で分ける方法です。
裁判になった場合、実務上は競売による換価分割が選ばれるケースが少なくありません。
誰も不動産を取得する意思がない、あるいは代償金を支払う資力がない。
そんな状況で、なおかつ共有者同士が一歩も譲らない場合、最終的な結論はここに行き着きます。
競売は、市場価格より安くなる傾向があります。その点では、決して理想的な方法ではありません。
それでも、「相手がどれだけゴネても、最終的には終わらせられる」という意味では、最大の武器です。
共有物分割請求が“強力”と言われる理由は、この換価分割が現実に用意されているからです。
話し合いが完全に行き詰まったときでも、共有関係を強制的に解消できる道が残されている。それが、この制度の本質だと言えるでしょう。
共有物分割請求の全手順【提訴から解決まで】
共有物分割請求は、いきなり裁判を起こせば終わる、というものではありません。
実際には、裁判を起こす前の準備段階で結果の大半が決まると言っても過言ではありません。以下、一般的な流れを順を追って見ていきましょう。
STEP1:事前準備(ここが一番重要!)
まず行うべきなのが、資料の整理です。
最低限必要になるのは、不動産の登記簿謄本と、誰がどの持分を持っているのかを示す相続関係資料です。遺産分割協議書があれば、それも重要な証拠になります。
あわせて欠かせないのが、不動産の評価です。
裁判では、「いくらの不動産を、どう分けるのか」が常に問題になります。評価が曖昧なままでは、代償分割を主張するにしても、競売を前提にするにしても説得力を欠きます。
この段階で弁護士に依頼すべき理由は明確です。
どの分割方法を狙うのか、評価はどう出すのか、どこまで主張するのか。ここを誤ると、裁判に勝っても納得できない結果になることがあります。事前準備は、法律論というより戦略の問題です。
STEP2:共有物分割請求訴訟の提起
準備が整ったら、共有物分割請求訴訟を提起します。
管轄は、原則として不動産の所在地を管轄する地方裁判所です。
訴状には、共有関係の内容、不動産の特定、そしてどのような分割を求めるのかを記載します。
「共有を解消したい」というだけでは足りず、裁判所に判断してもらうための材料をきちんと提示する必要があります。
訴訟を起こした後の相手方の反応は、ある程度パターン化されています。
完全に無視する人、感情的に反論してくる人、急に話し合いを持ちかけてくる人。いずれにしても、この時点で事態が動き出すケースは少なくありません。
STEP3:裁判で争点になるポイント
裁判で主に争われるのは、どう分けるのが妥当かという点です。
現物分割なのか、代償分割なのか、あるいは換価分割なのか。それぞれの主張に合理性があるかどうかが問われます。
また、不動産の評価額も重要な争点になります。
鑑定評価を出すのか、簡易的な査定で足りるのかはケースバイケースですが、金額次第で結論が変わることも珍しくありません。
さらに、見落とされがちなのが使用利益や管理費の清算です。
一部の共有者だけが不動産を使っていた場合、その使用料をどう扱うのか。固定資産税や修繕費を誰が負担してきたのか。こうした点も裁判では整理されます。
STEP4:判決または和解
共有物分割請求の裁判は、途中で和解に至ることもあります。
代償金の額や取得者を調整し、双方が納得できる形で終わるケースです。時間とコストの面では、和解で終わるに越したことはありません。
一方で、最後まで折り合いがつかなければ、裁判所が判決を出します。
その内容が、競売による換価分割であることも珍しくありません。判決が出れば、その結論に従って手続きは進みます。
STEP5:競売手続(換価分割)
換価分割が選ばれた場合、不動産は裁判所の管理のもとで競売にかけられます。
申立てを行い、評価・公告・入札という流れを経て、最終的に売却されます。
現実として、競売価格は市場価格より低くなる傾向があります。
この点をどう受け止めるかが、共有物分割請求を選ぶうえでの大きな判断材料になります。
売却後、代金は持分に応じて配当され、そこでようやく共有関係は完全に終了します。
時間はかかりますが、「いつまでも終わらない共有」を法的に終わらせる手続きとしては、これ以上確実な方法はありません。
メリット|「感情論を終わらせられる」
共有物分割請求の一番のメリットは、感情論から距離を置けることです。
相続が絡む不動産の共有は、理屈よりも感情が前に出がちです。一度こじれると、「話す気がない」「連絡に出ない」といった状態が何年も続くことも珍しくありません。
共有物分割請求は、相手の同意を必要としない点が決定的に違います。
こちらがどれだけ丁寧に話し合いを求めても応じない相手に、これ以上付き合い続ける必要はありません。裁判という枠組みに移せば、個人的な感情は切り離され、法的な判断だけが積み上げられていきます。
また、連絡が取れない共有者がいても手続は進みます。
行方不明に近い状態でも、適切な方法を取れば裁判は止まりません。「相手が姿を消したから何もできない」という状況から抜け出せるのも、大きな利点です。
共有状態は、放っておいても自然に解消されることはありません。
誰かが亡くなれば、その持分はさらに相続され、共有者は増え続けます。共有物分割請求は、そうした終わりのない共有関係を強制的に終了させる数少ない手段です。
裁判で結論が出れば、良くも悪くも白黒がつきます。
不満が残ることはあっても、「このまま宙ぶらりんで何年も続く」という不安からは解放されます。この法的に決着がつく安心感は、実際に手続を経験した人ほど強く感じる点です。
そして何より、相続問題を次の世代に持ち越さずに済みます。
自分たちが解決できなかった共有不動産を、子どもや孫に引き継がせない。そのための手段として、共有物分割請求にははっきりとした意味があります。
デメリット・リスク|覚悟すべき現実
共有物分割請求は、万能な解決策ではありません。
むしろ、選ぶ前に「ここまで覚悟できるか」を自分に問い直す必要があります。
まず、時間がかかります。
スムーズに進んでも1年程度、争いが激しければ2年以上かかることも珍しくありません。途中で何度も書面のやり取りがあり、待たされる期間も長い。すぐに終わる裁判だと思っていると、途中で気力が削られます。
次に、費用の問題です。
弁護士費用はもちろん、鑑定費用や印紙代などの実費もかかります。換価分割になれば、競売にかかるコストも無視できません。結果的に手元に残る金額が思ったより少ない、というケースもあります。
競売が選ばれた場合、売却価格は市場価格より下がるのが現実です。
「なぜこんな金額になるのか」と感じることもあります。こればかりは制度上避けられない部分で、納得できない人には向いていません。
そして、あまり語られませんが、親族関係はほぼ修復不能になります。
裁判を起こした時点で、関係は決定的に変わります。表面上は落ち着いたとしても、元に戻ることは期待しない方がいいでしょう。
それでも、共有物分割請求を選ぶ価値がある人はいます。
何年も話し合いを続けてきたが、何一つ前に進まなかった人。
このまま共有を放置すれば、問題がさらに大きくなると分かっている人。
感情よりも、「終わらせること」を優先できる人。
すべてを失う覚悟が必要、というわけではありません。
ただ、何かを手放さなければ、共有問題は終わらない。
その現実を受け入れられるかどうかが、判断の分かれ目になります。
共有物分割請求が向いている人・向いていない人
共有物分割請求は、誰にとっても正解という手続ではありません。
やるべきかどうかは、その人が何を優先したいかによって、はっきり分かれます。
共有物分割請求が向いている人
まず、これまでに何度も話し合いを試してきた人です。
連絡を取り、提案をし、譲歩もした。それでも何一つ進まなかった。そうした経緯があるなら、これ以上「話し合い」に期待する意味はあまりありません。
相手が非協力的だったり、そもそも音信不通だったりする場合も同様です。
こちらの意思だけではどうにもならない状況では、強制力のある手段を選ばなければ、時間だけが過ぎていきます。
また、感情よりも現実的な解決を優先できるかどうかは、大きな分かれ目になります。
悔しさや不公平感があっても、「終わらせること」を最優先に考えられる人は、共有物分割請求と相性がいいと言えます。
不動産を、思い出や象徴ではなく、一つの資産として割り切れる人も向いています。
どう扱うかよりも、「どう整理するか」を重視できるかどうかが重要です。
共有物分割請求が向いていない人
一方で、親族との関係修復を最優先したい人には向いていません。
裁判という手段を取った時点で、関係が元に戻る可能性はかなり低くなります。
競売をどうしても避けたい人も、慎重になるべきです。
理屈では理解していても、実際に市場価格より低い金額で売却されることに耐えられない場合、後悔が残ることがあります。
そして、費用や時間に余裕がない人。
長期戦になる可能性や、ある程度の出費を受け入れられない状況で進めると、途中で気持ちが折れてしまいます。
共有物分割請求は、「できるかどうか」ではなく、「やり切れるかどうか」が問われる手続きです。
自分がどちら側にいるのかを、感情ではなく冷静に見極めることが大切です。
弁護士に依頼すべき理由

共有物分割請求は、「書類を出せば裁判所が何とかしてくれる」手続きではありません。
むしろ、最初にどう設計するかで、結論が大きく変わる裁判です。
どの分割方法を狙うのか、どのタイミングで何を主張するのか。
訴訟の組み立てが甘いと、望まない形で競売に進んでしまうこともあります。自力で進める場合、この設計ミスに気づかないまま裁判が終わるリスクがあります。
特に重要なのが、競売を避け、代償分割を実現できるかどうかという点です。
代償分割は、ただ「取得したい」と言えば認められるものではありません。資力の裏付け、評価額の妥当性、他の共有者との公平性など、積み上げるべき要素が多くあります。ここには明確な戦略が必要です。
また、不動産評価や主張立証の難しさも軽視できません。
評価額一つで、支払う代償金も、最終的な配当額も変わります。裁判所にどう説明するか、どの資料を使うかによって、結果は大きく左右されます。
共有物分割請求は、相続・不動産・訴訟という三つの分野が重なる手続きです。
どれか一つの知識だけでは足りず、全体を見渡せる専門性が求められます。この点で、経験のないまま自力で進めるのは、正直なところ危険だと言わざるを得ません。
まとめ|共有は放置すると一生終わらない

不動産の共有状態は、時間が解決してくれる問題ではありません。
誰かが折れてくれるのを待っていても、自然に解消されることはありません。むしろ、年月が経つほど関係はこじれ、共有者は増え、状況は複雑になっていきます。
話し合いで解決できるなら、それに越したことはありません。
ただ、何度も試してうまくいかなかったのであれば、「話し合いを続けること」自体がリスクになる場合もあります。そのときには、裁判という選択肢が現実的に存在することを知っておくべきです。
共有物分割請求は、穏やかな方法ではありません。
それでも、どうしても終わらせたいときに使える、最後の切り札です。感情論を切り離し、法的に決着をつけるための制度として用意されています。
共有問題は、先延ばしにしても軽くはなりません。
本気で終わらせたいと考えているのであれば、早い段階で弁護士に相談し、選択肢を整理することが結果的に近道になります。
「まだ何とかなるかもしれない」と思っているうちに、取り返しがつかなくなる前に、一度立ち止まって考えてみてください。
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