「共有物分割訴訟で、競売になります。」
そう言われた瞬間、頭の中に浮かぶのはだいたい同じイメージではないでしょうか。
――競売=安く叩かれる。
――せっかくの不動産なのに、二束三文で処分されるのではないか。
特に相続で共有になった不動産の場合、「市場で普通に売れたら○千万円なのに、競売だと半分以下になるらしい」といった話をどこかで聞き、不安が一気に膨らむ方は少なくありません。
たしかに、競売には“価格が下がりやすい仕組み”があります。ただし、「競売になったら必ず大損する」というのは、半分は誤解です。現実には、同じ形式的競売でも、結果に数百万円、時にはそれ以上の差が出るケースも珍しくありません。
その差を生むのが、「競売に入る前に、何をしていたか」「どんな方針で進めていたか」です。つまり、結果の多くは“事前の対応”でほぼ決まってしまうと言っても過言ではありません。
この記事では、
なぜ共有物分割訴訟の競売は安くなりやすいのか、
それをできるだけ回避・軽減するためにどんな選択肢があるのか、
そして、その局面で弁護士がどんな役割を果たせるのか――
を、できるだけ現実的な目線で解説していきます。
「もう競売と言われたから仕方ない」と諦める前に、知っておいてほしい話です。
第1章|共有物分割訴訟における「形式的競売」とは
相続した不動産を兄弟姉妹で共有している。
話し合おうとしても意見がまったく合わない。
こうした状況で最終的に持ち込まれるのが「共有物分割訴訟」です。
流れとしてはシンプルで、まずは話し合い(協議)を試み、それでもまとまらなければ地方裁判所に訴訟を起こします。裁判所は「この不動産をどう分けるのが公平か」という観点から、いくつかの分割方法を検討し、最終的な結論を出します。
その分割方法は、大きく分けて次の3つです。
まず一つ目が現物分割。
土地を分筆する、建物と土地を分けるなど、不動産そのものを物理的に分ける方法です。ただ、実際には「分けたら価値が下がる」「そもそも分けられない建物」というケースが多く、使える場面は限られます。
二つ目が代償分割です。
一人が不動産を取得し、その代わりに他の共有者へ現金を支払います。理屈としては一番きれいな解決ですが、「そんな大金は払えない」「評価額で揉める」といった理由で、ここでも行き詰まることが少なくありません。
そして三つ目が、換価分割。
不動産を売却して、その売却代金を共有持分に応じて分ける方法です。裁判になった場合、この換価分割の手段として選ばれるのが「形式的競売」です。
ここでよく混同されるのが、通常の強制競売との違いです。
住宅ローンを払えなくなった結果、債権者に申し立てられるのが強制競売。一方、形式的競売は、共有者同士の公平な分配を目的として行われます。罰でも制裁でもなく、「分けられないから売って現金にしましょう」という、あくまで形式的な手続きです。
ただし、目的が違っても「競売は競売」です。市場での通常売却と比べると、どうしても条件は悪くなりがちです。
裁判所が形式的競売を選ぶのは、たとえばこんなケースです。
・現物分割が物理的に不可能
・代償分割を担える資力のある共有者がいない
・共有者間の対立が激しく、話し合いが成立しない
要するに、「他に打つ手がない」と判断されたときの、最終手段に近い位置づけです。
だからこそ、形式的競売に進むかどうか、その前段階の対応が、後の結果を大きく左右することになります。
第2章|なぜ形式的競売では価格が下がりやすいのか
「競売って、やっぱり安くなりますよね?」
相談の場で、ほぼ必ず出てくる質問です。残念ながら答えは「はい、何もしなければ安くなりやすい」です。
理由は単純で、競売はそもそも高く売るための仕組みではないからです。市場での通常売却は、「できるだけ条件のいい買主を探す」ことが前提ですが、競売は裁判所主導で淡々と進みます。この違いが、そのまま価格差になります。
まず大きいのが、内覧や情報の制限です。
一般の不動産売却であれば、室内を見て、周辺環境を確認して、納得してから購入します。しかし競売では、内覧できない、もしくは限定的な情報しか出ないことがほとんどです。買主からすれば「中がどうなっているか分からない物件」に高い金額は出しにくくなります。
次に、買主のリスク回避志向です。
競売に参加するのは、ある程度リスクを織り込んだ投資家や業者が中心です。万が一、明渡しで揉めたらどうするか、修繕費が想定以上だったらどうするか。そうした不確実性を前提に、「安全側」の価格で入札します。その結果、どうしても相場より低くなります。
さらに見落とされがちなのが、市場売却ではないという点です。
仲介業者が広告を出して広く買主を募るわけでもなく、「この日、この条件で入札」という一発勝負です。競争が起きにくい以上、価格が伸びないのは自然な話です。
加えて、共有物分割訴訟ならではの事情もあります。
それが、共有者間の紛争が価格に与える心理的影響です。「親族同士で揉めている物件」「訴訟中の不動産」というだけで、敬遠する買主は少なくありません。実務上、この“空気感”が入札額に影響することも、決して珍しくないのです。
では、何も対策をしなかった場合、どうなるのか。
多くのケースでは、「思っていた相場より、かなり低い金額で落札される」「手元に残るお金を見て、そこで初めて後悔する」という流れになります。しかも、競売が終わってから「やっぱり普通に売りたかった」と思っても、もう後戻りはできません。
だからこそ、形式的競売は「始まってから」ではなく、「始まる前」にどう動くかが重要になります。次章では、その具体的な対策について見ていきます。
第3章|「競売になったら終わり」ではない|価格下落を防ぐ4つの対策
形式的競売と聞くと、「もう避けられない」「あとは裁判所に任せるしかない」と思ってしまいがちです。ただ、実務の現場で見ていると、その考え方自体が一番の落とし穴になることがあります。
競売になるかどうか、そして競売になったとしてもどこまで価格を守れるかは、意外と人の動き次第です。
ここでは、現実的に取り得る4つの対策を紹介します。
対策① 競売に至る前に「代償分割」を目指す
まず検討すべきなのが、やはり代償分割です。
誰か一人、もしくは一部の共有者が不動産を買い取り、他の共有者に現金を支払う形です。
「そんな話、もうとっくに決裂している」と言われることも多いのですが、当事者同士の話し合いと、第三者が入る交渉は別物です。感情がこじれているほど、「本人からは聞きたくないが、専門家の話なら聞く」というケースは珍しくありません。
弁護士が入ることで、
・不動産評価を前提にした具体的な金額提示
・支払方法や期限の整理
・感情論を切り離した話し合い
が可能になります。結果として、「競売しかない」と思っていた状況から、代償分割に着地する例も実際にあります。
対策② 形式的競売でも「任意売却に近づける」工夫
仮に競売に進むとしても、すべてが自動的に決まるわけではありません。
競売申立のタイミングや、その前後の動き次第で、結果に差が出ます。
ポイントになるのが、不動産業者や評価との連携です。
どの程度の評価が妥当なのか、市場で売った場合との乖離はどれくらいか。こうした視点を踏まえずに進めると、裁判所の評価が現実から大きくズレることもあります。
実務上、
・事前にどこまで情報を整えていたか
・評価の根拠をどれだけ具体的に示せたか
で、落札価格に違いが出ることは珍しくありません。「競売だから仕方ない」と放置するか、「少しでも条件を整えるか」で、結果は変わります。
対策③ 競売条件・進行における法的コントロール
意外と知られていませんが、形式的競売は立場によって関与の仕方が変わる手続です。
申立人なのか、被申立人なのか。どの段階で、どんな主張をするのか。それによって、手続の進み方や影響力が変わります。
誰も主導しないまま進むと、「全員が損をする結論」に流れやすくなります。逆に言えば、法的な視点で整理し、主導権を意識して動けば、無駄な不利益を避ける余地はあります。
共有者同士が敵対している状況でも、「全員にとって不利な結論は避ける」という視点を持てるかどうか。そこに、専門家の役割があります。
対策④ 最初から「競売回避」を前提に訴訟設計をする
最後に一番重要な点です。
共有物分割訴訟は、出たとこ勝負の手続ではありません。訴訟の組み立て方次第で、結論は変わります。
最初から「どうせ競売になるだろう」と進めてしまうと、その流れは簡単に変えられません。一方で、「競売は最終手段」という前提で訴訟を設計すれば、途中で別の着地点が見えてくることもあります。
初期対応の差は、最終的に受け取る金額の差になります。競売を避けたい、少しでも損を減らしたいと思うなら、動くのは“早いほどいい”という点だけは、強調しておきたいところです。
第4章|弁護士に依頼すべき理由|形式的競売は“戦略案件”

共有物分割の話し合いが、なぜここまでこじれやすいのか。
理由はシンプルで、人間関係とお金が同時に絡むからです。
相続がきっかけの場合、「昔からの不満」「親の介護の負担」「感情的なしこり」が、不動産の話と一緒に噴き出します。本来は数字で整理できるはずの話が、「あの人だけ得をするのは許せない」という感情論にすり替わり、当事者同士では一歩も前に進まなくなります。ここまで来ると、冷静な話し合いを期待するのは現実的ではありません。
加えて、形式的競売は単なる訴訟案件ではありません。
不動産評価の知識、相続特有の事情、民事訴訟の進行管理――これらが同時に絡む、いわば複合分野です。
弁護士が介入することで得られるメリットは、単に「手続を代行する」ことではありません。
・感情を切り離した交渉の窓口になる
・不動産評価を踏まえた現実的な落としどころを示す
・競売を前提にしない選択肢を法的に組み立てる
・手続の流れを見据えて、無駄な不利益を避ける
こうした積み重ねが、最終的な結果に影響します。
重要なのは、「勝ったか負けたか」ではありません。
共有物分割訴訟において本当に意味があるのは、結果的に手元にいくら残ったかです。形式的競売は、その金額が大きくブレやすい手続だからこそ、戦略がものを言います。
なんとなく進めて、終わってから後悔する。
そうならないために、形式的競売は“放っておく案件”ではなく、“最初から考えて動くべき案件”だということを、ぜひ知っておいてください。
まとめ|競売を恐れる前に「できる対策」を知ってください

形式的競売と聞くと、「もう安く売られるしかない」と思ってしまいがちです。しかし、形式的競売=必ず安値というわけではありません。差がつくのは、その前後で何をしたかです。
何もしないまま流れに任せることこそが、実は一番のリスクです。
共有不動産の問題は、時間が経つほど選択肢が減っていきます。だからこそ、早い段階で状況を把握し、現実的な対策を考えることが重要になります。
「まだ迷っている」「本当に競売になるのか分からない」
そんな段階でも構いません。一度、専門家の視点で整理してみることをおすすめします。
弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所の初回相談は60分無料です。お気軽にお問い合わせください。
よくある質問(FAQ)
- 形式的競売と強制競売は何が違う?
形式的競売は、共有物を公平に分けるための手続です。一方、強制競売は債権回収を目的として行われます。目的が違うため、背景や進め方も異なります。 - 競売になったら必ず市場価格より安くなる?
一般に安くなりやすい傾向はありますが、必ず大幅に下がるとは限りません。事前の対応や手続の進め方によって、結果に差が出ます。 - 相手が話し合いに応じなくても対策はある?
あります。当事者同士では難しくても、弁護士が介入することで交渉が進むケースは少なくありません。訴訟を見据えた整理も可能です。 - 訴訟前でも相談できる?
もちろん可能です。むしろ、訴訟になる前の相談の方が、選択肢は多くなります。早めの相談が、結果的に損失を抑えることにつながります。
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