離婚した前妻の子は相続財産を受け取れる?
夫に離婚歴があり、前妻との間に子がいる場合、夫が亡くなったときの遺産分割は、誰との間でどのように進めていけばよいのでしょうか。
1.法定相続人の範囲と順位
夫が亡くなったとき、民法では、相続人の範囲と順位が定められています。民法で定められた法定相続人は複雑なため、これを正確に調べるには、亡くなった被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本類を取得して確認する必要があります。
⑴ まず、夫が亡くなった時点での配偶者である後妻は、常に相続人となります。なお、夫が亡くなる前に離婚または死別した配偶者である前妻は、相続人にはなりません。
⑵ 次に、配偶者以外の親族は、民法で定められた順位に従って相続人になるかどうかが決まります。
ア 第1順位の相続人は、夫の子です。後妻との間の子はもちろん、離婚や死別した前妻との間の子や、未婚の相手との間に産まれて認知された子、養子縁組した養子も相続人となります。夫が亡くなった時点でこれらの子らが既に亡くなっていたときは、その子(夫から見た孫)も相続人になります(これを、「代襲相続」といいます。)。また、孫も既に亡くなっていた場合は、その子(夫から見たひ孫)も相続人になります(これを、「再代襲相続」といいます。)。
イ 夫に子も孫もひ孫もいない場合、第2順位の相続人は、夫の直系尊属です。夫の親が存命の場合はその親が相続人になり、親が亡くなっていても祖父母が存命の場合はその祖父母が相続人になる、というように、順に遡っていきます。
ウ 夫に子も孫もひ孫も直系尊属もいない場合、第3順位の相続人は、兄弟姉妹です。夫が亡くなった時点でこれらの兄弟姉妹が既に亡くなっていたときは、その子(夫から見た甥・姪)も相続人になります(これも、「代襲相続」といいます。)。しかし、甥・姪も既に亡くなっていた場合は、その子は相続人になりません(つまり、兄弟姉妹に「再代襲相続」はありません。)。
2.前妻との間の子が受け取る相続財産の割合
夫に離婚歴があり、前妻との間に子がいる場合は、その子も第1順位の法定相続人として相続権が認められています。その法定相続分は、夫の死亡時の配偶者である後妻が2分の1、子が2分の1となります。ただし、これは子全体に認められる法定相続分なので、前妻との間にも後妻との間にも複数の子がいれば、子の人数で割ります。たとえば、前妻との間に子が2人、後妻との間に子が3人いる場合、子1人当たりの相続分は、1/2×1/5=1/10となります。
3.前妻との間の子との遺産分割の進め方
夫に離婚した前妻との間の子がいる場合、遺産分割の進め方には注意が必要です。
⑴ 前妻の子を外して遺産分割を行うことはできない
後妻やその子らは、できれば前妻の子に遺産を渡したくないと考えがちです。しかし、遺産分割協議は、法定相続人が全員参加して行わなければ法的に無効になるため、前妻の子を外して遺産分割をすることはできません。また、前妻の子が未成年者の場合は、その法定代理人(親権者あるいは未成年後見人)が子に代わって遺産分割協議に参加する必要があります。
その一方で、前妻の子が父親である夫とは関わりたくないと考えている場合などは、連絡が取れなかったり、連絡をしても無視されることがあります。その場合は、遺産分割協議を進めることができないため、弁護士等に相談することをお勧めします。
⑵ 相続人の範囲や相続財産の内容を明確に示す
前妻の子にも相続権がある以上、夫の相続人の範囲や相続財産の内容を明確に示すことが大切です。ただでさえ、前妻の子と後妻の家族はそれまで人間関係を築けていないことが多く、感情的対立が生じやすい状況の中、情報を隠したり小出しにしたりすると余計に不信感が募り、協議がますます難しくなるからです。
⑶ 協議が進まなければ、調停や審判を利用する
協議をしても折り合えない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、裁判所の関与の下で遺産の分け方を話し合います。それでも合意に至らない場合は、遺産分割審判の手続に移行し、裁判官が遺産分割の方法を決定します。その場合には、原則、法定相続分に従って遺産が分割されます。
4.紛争を未然に防ぐために
夫は、離婚歴があり、前妻との間に子がいる場合には、生前から遺言を作成しておき、自分の死後に前妻の子と後妻の家族との間で紛争が生じないよう対策をしておくようにしましょう。遺言で全ての相続財産について相続方法を指定しておき、また、遺言執行者を指定しておけば、死後に相続人間で遺産分割協議をする必要がなくなり、遺言執行者が遺言を執行するだけになるので、無用なトラブルを避けることができます。
ただし、前妻の子には、法律上一定の相続人に保証された「遺留分」という権利が認められています。夫がこれを侵害する内容の遺言を遺した場合、夫の死後に、前妻の子が他の相続人に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払の請求をする可能性が残ります。そのため、夫は、遺産分割のみならず遺留分に関する紛争を未然に防ぐためには、遺留分にも配慮した遺言を遺しておくことが必要です。