相続が発生すると、「遺産をどう分けるか」を相続人同士で話し合う必要があります。ところが実際には、話し合いを始めようとしても、次のようなところで止まってしまうことが少なくありません。
- 誰が相続人なのか、戸籍を見てもよく分からない
- 財産を管理している相続人が資料を出してくれず、何を分けるのかが確定しない
- 不動産を売るか、誰が住むか、評価をどうするかで意見が割れる
- 「生前に援助を受けていたはず」「介護の負担が違う」など、不公平感が出て感情的になってしまう
遺産分割は、単なる「話し合い」ではなく、前提(相続人の確定・相続財産の把握・その他の争点)を整理したうえで最終的な合意を作り、合意内容を実行するプロセスでもあります。ここでは、一般的な流れをステップ形式で整理します。
(※具体的な進め方や必要書類は、遺産の内容や相続人によって異なります。)
ステップ0:期限のある手続、その他前提事実の確認
遺産分割の話し合いに入る前に、まず確認したいのが「期限のある手続」です。代表例は相続放棄です。
ここで重要なのは、期限が問題になる可能性がある状況で、十分な整理をしないまま話し合いを進めてしまうと、後から選択肢が狭まる場面があることです。
また、負債の有無が不明、事業や借入が絡む、財産管理が複雑、といった場合は、遺産分割と並行して「まず何を確定させるべきか」を整理することが出発点になります。
チェックポイント(例)
- 借入金・保証債務など負債の可能性がないか
- 事業・不動産賃貸など継続的な管理が必要なものがないか
- 遺言の有無(公正証書遺言など)
ステップ1:相続人を確定する(戸籍収集)
遺産分割協議は、原則として相続人全員の合意が必要です。そのため、「誰が相続人か」が確定していない状態では、協議が前に進みにくくなります。
相続人の確定は、一般に戸籍を収集して行います。戸籍をたどると、転籍や改製原戸籍があり、想定より手間がかかることもあります。さらに、認識していなかった相続人が判明する場合もあります。後日の遺産分割のやり直しを回避するためには、早い段階で相続人が誰かを確定することが大切です。
この段階で作っておくと便利なもの
- 相続関係説明図(家族関係を図にしたもの)
- 相続人の連絡先一覧(住所・電話・メールなど分かる範囲で)
つまずきやすい点(一般論)
- 相続人の一部が疎遠で、連絡が取れない
- 戸籍の読み解きが難しく、どこまで集めればよいか分からない
- 代襲相続など、関係が複雑になっている
この段階でつまずくと、その後の財産調査や遺産分割協議書の作成にも影響します。必要に応じて、専門家に整理を依頼することで、手続の見通しを立てやすくなることがあります。
ステップ2:相続財産(遺産)を把握する(プラスもマイナスも)
次に行うのが、相続財産(遺産)の把握です。遺産分割は「何を分けるか」が定まらないと始まりません。
相続財産は、プラスの財産だけでなく、負債などマイナスの財産も含めて整理します。一般的には、次のようなカテゴリで洗い出します。
相続財産の主な例(整理表)
- 預貯金:銀行、信用金庫、ゆうちょ など
- 証券・投資商品:株式、債権、投資信託、NISA口座など
- 不動産:自宅、別荘、土地、建物、賃貸物件、共有持分など
- 動産:自動車、貴金属、美術品など(高額品は特に)
- 事業関係:売掛金、貸付金、在庫など
- 負債:借入金、未払金、保証債務など
この段階のポイントは、「資料に基づいて」「漏れなく」です。推測で話し合いを始めると、後から財産が出てきて協議をやり直すことになったり、「遺産を隠しているのでは」と相続人間で不信感が強まり、遺産分割協議が難航することもありますので注意が必要です。
ステップ3:争点を整理する(不動産の分け方と評価・特別受益・寄与分など)
遺産分割の話し合いが止まる原因の多くは、「争点が混ざっていること」にあります。例えば、不動産を誰が取得するかという話と、不動産の評価の話と、過去に被相続人から受けた援助の話が同時に出ると、どれが未解決なのか分かりにくくなります。
そこで、争点を次のように切り分けて整理します。
不動産がある場合:分け方と評価を分けて考える
不動産があるときは、
- 分け方(売却する/誰かが取得する/共有にする)
- 評価(いくらとして扱うか)
を分けて検討すると、協議が整理されやすくなります。
生前贈与・援助(特別受益)や介護負担(寄与分)
「被相続人の生前に援助を受けていた」「介護したのに同じ取り分なのは納得できない」といった不満が出ると、協議が感情面に引っ張られがちです。
この場合も、まずは事実関係を資料で確認し、論点として整理できるかを検討します。どこまで主張が認められるかは状況により異なるため、早い段階で整理することが大切です。
連絡が取れない相続人がいる
遺産分割では相続人全員の合意が必要になる場面が多いため、相続人の一部と連絡が取れない場合、協議の進め方自体を工夫する必要があります。
ステップ4:遺産分割案を作り、合意形成を進める
前提と争点の整理ができたら、具体的な遺産分割案を作ります。ここでのポイントは、単に「自分の希望」を伝えるだけでなく、根拠と選択肢を示しながら、合意できる部分を探ることです。
例えば、不動産について
- 換価分割(売却)を前提に現金化して分ける
- 取得者が代償金を支払う代償分割を検討する
- 当面共有にする(ただし将来の管理・処分の課題が出ることがある)
など、複数案を比較しながら検討することが多いです。
また、当事者同士で直接連絡を取ることが負担になっている場合、代理人を窓口にしてやり取りを整理すると、落ち着いて進められることもあります(事案により異なります)。
ステップ5:遺産分割協議書を作成し、合意を実行する
相続人間で合意ができたら、内容を遺産分割協議書にまとめます。協議書は、後の手続(預貯金の払戻し、不動産の名義変更等)のためにも重要です。
遺産分割協議書で確認したい代表例
- 不動産の表示が登記簿どおりになっているか
- 預貯金口座の特定ができているか
- 誰がどの財産を取得するか明確か
- 後から財産が判明した場合の取り扱い(清算条項など)
- 手続の担当(誰が何をするか)をどうするか
遺産分割協議書ができたら、名義変更・解約・払戻しなどの手続を進めます。相続では、合意後の手続が意外に多いこともあるため、「実行まで見据えて協議書を作る」ことが実務上のポイントになります。
まとまらないとき:調停という選択肢(一般論)
協議や交渉で遺産分割の合意ができない場合、家庭裁判所の遺産分割調停の利用を検討することがあります。調停は当事者の意向を踏まえつつ、調停委員を介して話し合いを進める制度です。
もっとも、調停に進むかどうか、どの資料を準備するかは事案により異なるため、停滞原因(資料不足/評価方法の対立/感情的な対立など)を踏まえて整理することが大切です。
まとめ:遺産分割は「前提整理→合意→実行」の順で考える
遺産分割は、(1)相続人の範囲、(2)相続財産の把握、(3)争点を整理することで協議が進めやすくなることがあります。感情面の対立が大きいときほど、問題になっている点を切り分けて「何を決めれば前に進むか」を明確にすることが重要です。
当事務所では、相続に関するご相談は初回60分まで無料で承っています。話し合いが止まっている原因整理からご相談いただけます(具体的な見通しは個別事情により異なります)。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 遺産分割は何から着手するのが一般的ですか?
一般には、相続人の確定(戸籍)と相続財産の把握(財産目録作成)を行い、そのうえで分割案を検討する流れが多いです。どこから始めるべきかは事情により異なります。
Q. 財産がはっきりしないまま遺産分割協議を始めても大丈夫ですか?
進行のために大枠の協議を始めること自体はあり得ますが、後から財産が判明して協議のやり直しが必要になる場合もあります。可能な範囲で財産を整理してから進める方が安全な場面があります。
Q. 遺産分割協議がまとまった後に行う手続にはどんなものがありますか?
不動産の相続登記、預貯金の解約・名義変更、有価証券の移管・名義変更、保険金請求などが代表例です。必要な手続は財産の種類や金融機関等により異なります。
Q. 遺産分割協議が難しいとき、調停を検討する目安はありますか?
当事者間の協議が長期化している、連絡が取れない相続人がいる、争点整理が進まない、といった場合に調停を検討することがあります。適否は個別事情で変わります。
今の状況を伺いながら、「相続人の範囲の確定→相続財産の把握→その他の争点→遺産分割案→遺産分割協議書の作成」のどこから着手するのがよいか、段取りの組み立てからご相談いただけます。
相続に関するご相談は初回60分まで無料です。現状に合わせた段取りの整理からご相談いただけます(具体的な見通しは個別事情により異なります)。
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