いわゆる「名義株」の問題
会社の事業承継を行うにおいては、株式譲渡の方法によることが多いですが、その場合、100%の株式の譲渡を求められるのが通常です。そのため、手続きを円滑に進めるためには、前提として、株主構成を予め整理し、株式をまとめて譲渡できるようにしておくことが重要です。この点、いわゆる「名義株」がある場合には、様々な問題が生じます。
名義株とは
「名義株」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。名義株とは、株主名簿に記載されている株主と真の株主が異なっている状態の株式のことを言います。平成2年の商法改正以前においては、会社を設立するためには最低7人の発起人が必要とされており、各発起人が1人最低1株を引き受けなければなりませんでした。そのため、発起人の1人だけが実質的な株主で出資金全額を負担しており、その他の株主は形式を整えるために名前を借りているだけで実態がないといったケースも往々としてありました。名義株が多く生じている原因はこのような従前の制度によるところが大きいと言われています。その後、法改正が重ねられ、現在では、発起人が一人でも会社を設立することが可能になっていますので、名義株の問題が生じることは少なくなっていますが、存続期間が比較的長い会社については、事業承継を考える上で、名義株の問題が生じていないかにまず注意する必要があります。
名義株主なのか、真の株主なのか
名義株であるかどうかについての判断がまず問題です。名義貸しをするに際して確認書のようなものが作成されていればよいですが、実際は何の資料も残っていないことが多いです。また、年月が経過していると、事情を把握している者もいなくなっていたりして、それが名簿上の株主が、名義株主であるのか、真の株主であるのかということを客観的に判断することも難しくなります。どこまで判別ができるかは事案によるとしか言えませんが、関係者からの事情聴取や現存する資料等から、出資者が誰か、株主として議決権を行使しているのは誰か、配当を受け取っていたのは誰か、名義貸しの経緯、その理由、名義貸人と名義借人の関係などの事情を可能な限り把握し、真の株主が誰かを判断することになります。
名義株への対応
名義株は、これを放置しておくと、後々、名義株主から権利主張されたり、株式の買取りを求められたりするなどして、その対処するために多大な労力、費用が生ずるおそれがあります。そのため、早期に対応をし、権利の外形と実体が合致する状態にしておく必要があります。具体的には、名義株であることについて名義貸人と名義借人の認識が一致しており、名義貸人の承諾が得られる場合は、名義貸人から承諾書を得て、それに基づき株主名簿の名義書換を行うといった対応を取ります。名義貸人の承諾が得られない場合の対応は難易度が上がります。例えば、株式併合によって名義株式の数を減少させるとか、一定の金額で買い取ってしまうなどの方法を検討することになります。
以上の通り、名義株の問題を放置しておくと、事業承継を検討する際の障害となりえます。名義株であるかが特定できない状況になってしまった場合には、名義株主から権利主張され、株式買取請求をされるなどの大きな問題に発展しますので、名義株が疑われる場合はできるだけ早期に解決を図っておくことが重要です。