相続の遺産分割で、最も話し合いが止まりやすいテーマの一つが「不動産」です。預貯金のように単純に分割することができず、しかも、これまでの思い出や、そこに住んでいる相続人がいる場合には生活に直結するため、理屈だけでは進みにくい側面もあります。
- 自宅を売りたい人と、住み続けたい人がいる
- 「いくらの価値として扱うか」で意見が割れる
- 共有にするかどうかで迷っている
- 不動産を管理してきた相続人と、そうでない相続人で温度差がある
このページでは、不動産がある相続で検討されやすい分け方(代償分割・換価分割・共有)と、話し合いを前に進めるための整理ポイントをまとめたいと思います。
不動産相続が難しくなりやすい理由
不動産相続がこじれやすい理由は、主に次の3点です。
1)「分け方」が一つではない
不動産は、売却して現金化する、相続人の誰かが取得する、共有にするなど複数の選択肢があります。どの選択肢が良いかは、状況や相続人によって重視する点が異なるため、議論が噛み合わないことがあります。
2)不動産の「評価」が揃わないと取り分の議論ができない
遺産分割では、特に売却して現金化しない場合には、結局「不動産をいくらとして扱うか」が重要になります。不動産の評価額について合意ができなければ、代償金の金額や、他の財産とのバランスが決められません。
3)生活・感情の要素が入りやすい
特に自宅不動産については、住まい(現に住んでいる相続人がいるなど)、介護、これまでの思い出、自宅の管理の苦労などの要素が絡んでくることが多いです。こうした要素が複雑に絡んでくると、事実関係や金銭面の整理をしただけでは、当事者が納得できる落とし所を探ることが難しくなります。
不動産の分け方:主な3つの選択肢
遺産に不動産がある相続では、次の3つが典型的な選択肢です。どれか一つが常に正しいわけではなく、状況に応じて検討していくことになります。
1)代償分割:取得者が他の相続人に代償金を支払う
代償分割は、相続人の一人が不動産を取得し、その代わりに他の相続人に代償金(調整金)を支払う考え方です。
●メリット
- 売却せずに住み続けたい相続人がいる場合に選びやすい
- 不動産の名義が一本化され、その後の管理・処分がしやすくなる
●注意点
- 取得者側に代償金を支払う資金力が必要
- 代償金の算定をするには、前提として不動産の評価額が問題となるため、評価が割れると調整が難しい
- 代償金の支払方法(分割払いの可否、期限、担保等)で揉めることがある
●実務での整理ポイント
- 「評価額」をどう置くか(次の章で解説)
- 代償金を一括で払えるか/借入が可能か
- 支払を分割する場合、合意内容を協議書にどう書くか(期限・遅延時の取扱い等)
2)換価分割:売却して現金を分ける
換価分割は、不動産を売却して現金化し、売却代金を相続人で分ける方法です。分け方が比較的明確になるため、合意できれば相続人全員が納得しやすい面があります。
●メリット
- 現金化されるため、それぞれの取り分を整理しやすい
- 共有のまま将来に持ち越すリスクを減らしやすい
●注意点
- 売却の同意、売り出し価格、時期、引渡し条件で意見が分かれることがある
- 売却までの管理費・修繕費・固定資産税などの負担分担を決める必要がある
- 住んでいる人がいる場合、立退きや引越しの調整が必要になることがある
実務での整理ポイント
- 売却に向けて「誰が窓口になるか」
- 不動産会社の選定、媒介契約の形
- 売却までの費用をどう負担するか(立替・清算)
- 売却益・売却損が出た場合の扱い
3)共有:相続人で持分を分けて共同所有する
不動産を相続人で共有にする方法もあります。すぐに売る・取得者を決める結論が出ないときに、「いったん共有」という形が選ばれることもあります。
●メリット
- 直ちに売却や代償金支払いができない場合の暫定策になり得る
- 誰か一人に帰属させることへの抵抗感が強い場合に落とし所になり得る
●注意点
- 管理や処分(売却・賃貸等)をするにあたり共有者で合意が必要になり、今後も調整が続くことになる
- 次の相続で更に共有者が増え、合意形成が一層難しくなることがある
- 固定資産税や修繕費などの費用負担で問題が起きやすい
共有は「今すぐの結論」を先送りできる一方、将来の課題を残すこともあるため、選ぶ場合には「いつ・どうやって共有を解消するか」まで含めて検討すると、後の負担を減らしやすくなります。
不動産評価の考え方
不動産の分割方法を決める前提として、不動産をいくらと評価するかが重要です。評価の方法にはいくつかあり、目的(代償金の算定、売却の検討等)によって重視点が変わります。
1)固定資産税評価額・路線価・実勢価格
- 固定資産税評価額:固定資産税の算定で用いられる価格。市場価格と一致しない場合がある
- 路線価:相続税評価等で用いられることがある
- 実勢価格:市場で売れそうな価格(不動産会社の査定等で把握)
どれを基準にするかは状況によって異なり、相続人間で「前提」を揃えないと対立が続きやすくなります。
2)不動産会社の査定
換価分割を検討する場合などに、複数社の査定を取り、相場感を共有することがあります。査定には前提条件(リフォーム要否、境界、引渡し条件等)が影響するため、比較する際は条件も確認します。
3)鑑定等を検討する場面
評価の差が大きく、交渉の土台が作れない場合に、不動産鑑定士による鑑定等を検討することがあります。ただし、費用や期間の問題もあるため、事案に応じて必要性を見極めます。
住み続けたい相続人がいる場合の調整ポイント
自宅不動産でよくあるのが、「売却して分けたい」一方で「住み続けたい」希望があるケースです。この場合、代償分割が候補になりやすい一方、代償金の支払能力や、同居者・介護事情など複数の要素が絡みます。
整理の視点(例)
- 誰が住んでいるか、今後も住み続ける必要性があるか
- 住宅ローンの残債・名義・担保の状況
- 代償金の捻出方法(一括/分割、借入の可能性等)
- 住み続ける場合の固定資産税・修繕の負担をどうするか
感情面の対立が強い場合でも、事実関係と金銭条件を切り分けて整理すると、協議の見通しが立ちやすくなることがあります。
名義変更(相続登記)・売却まで見据えた準備
不動産が絡む相続は、合意しただけでは終わらず、登記や売却などの手続が必要となります。分割案を検討する段階から、次の点を確認しておくと、手戻りを減らしやすくなります。
- 登記事項証明書で不動産を正確に特定できているか
- 境界や建物の増改築など、売却時に問題になり得る点がないか
- 賃貸中の場合、賃貸借契約や管理状況が分かる資料があるか
- 共有にするなら、管理ルールや費用負担をどうするか
まとめ:不動産相続は「分け方」「評価」「実行」を分けて整理する
不動産相続は、分け方(代償/換価/共有)と、評価(前提)と、合意後の実行(登記・売却)を分けて整理すると、話し合いが進みやすくなることがあります。
合意の可否や最適な選択は状況により異なるため、まずは論点を切り分けて、現実的な選択肢を並べることが大切です。
当事務所では、相続に関するご相談は初回60分まで無料で承っています。不動産の分け方や評価の整理、協議の進め方からご相談いただけます。
手続や話し合いの中で迷いやすい点をQ&Aで整理します。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 相続不動産は「共有」にしても問題ありませんか?
共有自体は選択肢になり得ますが、将来の売却や修繕、管理費負担などで意思決定が難しくなる場合があります。事情により適否が異なるため、将来も見据えて検討することが重要です。
Q. 不動産の評価方法はどう考えますか?
固定資産税評価額、路線価、実勢価格(査定)など複数の基準があり、目的(分割協議、税務等)で使い分けることがあります。どの資料を採用するかは案件により異なります。
Q. 住んでいる人がいる家を分けるときの論点は?
居住継続の希望、代償金の支払い可否、売却の是非、維持費の負担などが論点になりやすい傾向があります。感情面も絡みやすいため、条件を整理して協議することが大切です。
Q. 売却して分ける場合、どんな費用が発生しますか?
仲介手数料、測量・登記関連費用、譲渡に伴う税務上の検討などが生じることがあります。具体的な費用は不動産の状況や取引条件で変わります。 相続に関するご相談は初回60分まで無料です。不動産の分け方(代償・換価・共有等)の整理からご相談ください(具体的な見通しは個別事情により異なります)。
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