相続財産を処分してしまっても相続放棄はできるのか

相続財産を処分すると、「法定単純承認」が成立し、その後は原則として相続放棄ができなくなります。

「法定単純承認」とは、相続人が、相続財産を処分するという行動を自らとることにより、資産(プラスの財産)も負債(マイナスの財産)も全て制限なく相続するという意思表示をしたものとみなされることです。

相続するという意思表示をしたにもかかわらず、それと矛盾する相続放棄を認めることは不合理であり、法律関係をいたずらに混乱させることから、相続財産の処分により法定単純承認が成立した後は、相続放棄は認められません。

相続財産の処分とは

「相続財産の処分」とは、相続財産の売却、預貯金の解約・払い戻し等の法律行為だけではなく、相続財産を自分で廃棄するなどの事実行為も広く含みます。

もっとも、相続人が行った処分行為の全てが法定単純承認とみなされるわけではなく、民法上、「保存行為」と「短期賃貸借」については、相続財産を処分した後であっても、例外的に相続放棄が認められます。

法定単純承認の例外となる「保存行為」と「短期賃貸借」とは

保存行為

「保存行為」とは、相続財産の価値を現状のまま維持するために必要な行為をいい、例えば壊れそうな建物を現状維持に必要な範囲で修繕したり、腐敗しやすい物を処分すること等がこれにあたります。

保存行為は、あくまでも相続財産の現状維持を目的とするものに過ぎず、そのことから直ちに、相続財産を無制限に相続するという行為者の積極的な意図を読み取ることは難しいことから、法定単純承認の例外とされています。

もっとも、例えば建物の修繕といっても、それが現状維持のために最低限必要なものなのか、あるいは多少なりとも建物の価値を増加させる「リフォーム」にあたるものなのか、明確に区別することが難しいケースもあります。

このように、ある行為が保存行為に当たるかどうかは、具体的な事案に即して判断する必要がありますので、迷ったときには専門家にアドバイスを求める等、慎重に対応した方が良いでしょう。

短期賃貸借

次に「短期賃貸借」とは、相続財産の種類に応じて定められた、一定の期間を超えない賃貸借をいい、法定単純承認の例外とされています。

その他法定単純承認に当たらない例

その他にも、解釈上、相続財産の処分として法定単純承認に当たらないとされているものの例として、財産的価値のない物の形見分け、相続財産からの被相続人の医療費の支払、相続財産からの被相続人の葬儀費用の支払等が挙げられます。

もっとも、財産的価値の有無の判断が難しいこともありますので、形見分けについて迷ったときには、弁護士等の専門家に相談するのも一つの方法です。

また、葬儀費用の支払についても、社会通念上相当な金額であることを条件とする見解が有力ですので、注意が必要です。

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