相続廃除について(東京高裁平成4年12月11日決定)

民法892条の推定相続人の廃除は、相続権をもっている人を相続から除外することができる制度のことです。

どのような場合に廃除ができるのか、東京高裁の決定を例に説明します。

相続の廃除原因 「重大な侮辱があった」と認められた決定

相続人となるべき者(推定相続人)が被相続人に対し、虐待をし、若しくは重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除(相続権・相続資格を奪うこと)を家庭裁判所に請求することができます(民法892条)。

それでは、具体的にどのような事由があれば廃除原因としての「重大な侮辱」があったと認められるのでしょうか。これに当たると判断した東京高裁平成4年12月11日決定を紹介します。同決定が認定、総括した事実関係は、以下のとおりです。

虞犯事件を繰り返していた推定相続人に対して重大な侮辱または著しい非行があるとして相続廃除を求めた

推定相続人Y(Xらの二女)は、小学校の低学年の頃から、虚言、盗み、家出などの問題行動を起こすようになりました。中学高校に在学中を通じて虞犯事件(家出、怠学、犯罪性のある者等との交友等)を繰り返して起こし、少年院送致を含む保護処分を数回受けました。

18歳に達した後もスナックやキャバレーに勤務したり、暴力団員と同棲したりしました。次いでキャバレーに客として通って来た前科のある暴力団の中継幹部Aと同棲して、同人との婚姻届出をし、(第1審審判後に)その披露宴をするに当たっては、父母Xらが婚姻に反対であることを知りながら、招待状に招待者としてAの父Bと連名でXの名を印刷してXらの友人等にも送付しました。

Xらが、重大な侮辱又は著しい非行があるとして、Yを相続人から廃除する旨の審判を家庭裁判所に求めました

 

家庭環境に理由があるとして第一審では申立てが却下される

第1審は、Yの少年時代の非行歴については、Xらの家庭環境にも相当の問題があって一方的にYにのみ責任を帰することはできないとして廃除事由に当たらないとし、また、Bとの婚姻についても、その者との婚姻を継続する子と親との間に相続関係を維持することを期待することが社会的に酷であると認められる特段の事情がない限り、重大な侮辱その他の廃除事由に該当するということはできないとして、本件申立てを却下しました。

 

東京高裁では「重大な侮辱」があったとして原審判を取り消す決定

 

東京高裁は、上記事実関係に基づき、次のとおり判断して、原審判を取り消し、YをXらの推定相続人から廃除する旨の決定をしました。

Yの一連の行動について、Xらは、親として最善の努力をしたが、その効果はなく、結局、Yは、家族に対する帰属感を持つどころか、反社会的集団への帰属感を強め、暴力団の一員であった者と婚姻し、そのことをXらの知人にも知れ渡るような方法で公表したもので、Xらは、Yの一連の行為により多大な精神的苦痛を受け、その名誉が毀損され、その結果XらとYとの家族的協同生活関係が全く破壊され、今後もその修復が著しく困難な状況となっているといえ、Xらの本件廃除の申立ては理由がある。

虐待とは、被相続人に対して精神的又は身体的に苦痛を与えることをいい、重大な侮辱とは、被相続人の人格的側面を甚だしく損ねることをいいます。虐待、重大な侮辱、著しい非行についてどのような行為が廃除原因に当たるかの判断基準としては、一般的に、それが相続的協同関係ないし家族的共同生活を破壊する程度のものであることを要するとされています。

 

「重大な侮辱」にあたる主な廃除事由

次に、比較的最近の決定・審判例から、更に、具体的にどのような行為が廃除事由としての虐待や重大な侮辱に当たるのか紹介します。

⑴ 長男が60歳を超えた父に対して短期間(4月頃及び7月15日)に3回暴行を加え、1回は鼻から出血するという傷害を、1回は全治3週間を要する両側肋骨骨折、左外傷性気胸の傷害を負わせて数日間の入院治療を受けさせた(大阪高決令和元年8月21日)。

⑵ 長男が父に対して暴力を断絶的に繰り返し(虐待)、無断で父の郵便貯金合計3582万円余の払戻しを受けて取得し(著しい非行)、父が申し立てた廃除の調停事件において、父の精神的障害ないし人格異常をいう主張ないし行動を続けていた(重大な侮辱)(和歌山家審平成16年11月30日)。

⑶ 長男夫婦が父と、死亡した父の後妻の遺産相続を巡って対立し、長男が父にやかんを投げ付けてけがを負わせたり、「早く死ね」などと暴言を吐き、父がやむを得ず遺産分割調停を成立させた(長男夫婦の行為は一過性のものではなく、父に対する日頃の非協調的ないし敵対的な態度性向が明確に露呈したものと。)(東京高決平成4年10月14日)。

 

「著しい非行」にあたる主な廃除事由

また、何が廃除事由としての著しい非行に当たるのかについても紹介します。

⑴ 被相続人が10年近く入院及び手術を繰り返していることをその養子が知りながら、居住先の外国から年1回程度帰国して生活費等として被相続人から金員を受領するだけで、その面倒を見ることもなく、被相続人から提起された離縁訴訟等について、連日電話をかけて、体調が悪いと繰り返し訴える被相続人に対し、長時間にわたって取下げを執拗に迫り、同訴訟をいたずらに遅延させた(東京高決平成23年5月9日)。

⑵ 長男が競馬、パチンコ、車購入、女生徒の交際費等で借金を重ね、父に2000万円以上を返済させたり、ヤミ金等の債権者が父宅に押し掛けることにより父を約20年間にわたり経済的、精神的に苦しめてきた(神戸家伊丹支部審平成20年10月17日)。

⑶ 長男が窃盗等を繰り返して何度も服役し、現在も常習累犯窃盗罪で懲役2年の刑に処せられて在監中で、交通事故を繰り返したり消費者金融から借金を重ねたりしながら、被害弁償や借金返済をしなかったため、父をして被害者らへの謝罪と被害弁償や借金返済等に努めさせ、父に多大の精神的苦痛と多額の経済的負担を強いた(京都家審平成20年2月28日)。

⑷ 長男が、70歳を超えた高齢の母について介護の必要があったにもかかわらず、介護を妻に任せたまま出奔し、父から相続した田畑を母や親族らに知らせないまま売却し、妻との離婚後、母や子らに対する扶養料も全く支払わなかった(福島家審平成19年10月31日)。

 

 

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