死んだらあげるからと言う口約束の有効性
1.遺言を作るのが面倒だなあ…と思っていませんか?
遺言という言葉自体は、広く一般に浸透している用語なのではないかと思います。自分又は家族が年を重ねて、その次の代への財産の承継を考えたときには、一番に思いつくものなのではないでしょうか。もっとも、実際に正式に効力を発揮する遺言を作っている人はまだまだ少ないように感じます。中には、遺言を作らないと…と思いつつ、なんだか面倒だなあと感じていた矢先に亡くなってしまった…というケースもしばしば見受けられます。
正式な遺言書というものは存在しないものの、生前に被相続人から財産の承継に関する被相続人自身の意向を聞いていた場合、それにはどのような意味があるのでしょうか?今回はそういったケースを想定して、お話します。
2.家族に話しておくだけで大丈夫?
民法960条は、「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。」と定めています。そのうえで、民法は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言という3種類の方式を定めています。つまり、これら以外の方法で作成されたものは、遺言としての効力を持たないということです。
では、今回設定したケースのように、被相続人が、相続人たちに、「私が死んだら○○に家を引き継ぐつもりだ」などと生前によく話していた場合、指名されていた人は、当然に家をもらえるのでしょうか。
これは、遺言というものが口頭で成立するのか?、という問題になりますが、上記のとおり、民法は口頭での遺言という方式を認めていません。そのため、生前からことあるごとに被相続人がそのような話をしていたとしても、残念ながらそれが遺言として有効だということにはなりません。
3.それでは全く意味がないの?
被相続人との間の口約束というのは、遺言としての効力がないとして、そうすると被相続人の生前の話というのは、全く意味がないものなのでしょうか?
結論から申し上げると、被相続人が正式な遺言書を作成していなかった以上、相続人たちが、被相続人の生前の話に縛られる必要はありません。相続人たちが自分たちの意向にそって、被相続人の遺産を分割していくことで足ります。
ただ、遺産分割を始めとする相続分野全体に通ずる発想として、被相続人の意思を尊重するという考え方があります。もともとは被相続人の財産であり、被相続人自身に財産の処分権限があったことからすると、このような考え方はごく自然なものです。
そういった考え方を採用するならば、相続人たちが円満に協議できる状況で、被相続人の生前の話について相続人たち全員が知っており理解を示すような場合に限っては、相続人たちによる遺産分割協議の中で、被相続人の生前の話に基づいて分割していくということもありうることかと存じます。
もっとも、被相続人の立場になる方々におかれましては、自身の財産承継に一定の意向があるのであれば、相続人たちの自発的な分割協議に任せることなく、生前に正式な遺言を作成しておくことを強くおすすめします。遺産分割協議というのは、どんなに仲の良い相続人間においても、思わぬトラブルに発展するおそれがあります。ご自身の相続人たちの間のトラブルを防ぐためにも、生前にご自身で正式な遺言を作成しておきましょう。