遺言執行者の指定
遺言執行者とは?
身近な方が亡くなったとき、その方が遺言書を作成していたかどうかというのは、その後の相続手続きに大きな影響を与えます。相続の基本的な考え方として、亡くなった方の意思をできるだけ尊重しよう、というものがありますので、遺言書がある場合には、多くのケースで、遺言書の内容に従って、遺産の分割をしていくことになります。
ただ、被相続人の意思と相続人たちの思いに齟齬が生じることもありますし、一部の相続人からは賛同されても、一部の相続人の理解を得られない、ということも起こりえます。そうすると、遺言を作成する立場からすると、自分の死後に、きちんと遺言の内容が実現されるか不安を抱えることになります。
そのようなときに、遺言の中で、「遺言執行者」を指定しておくと少し安心できるかと思います。「遺言執行者」とは、簡単に言うと、遺言者が遺言書に記載した内容を実行する人のことです。具体的には、遺言者が遺言で指定した内容・方法に従って、相続人に代わって遺言者の預金債権を解約して払戻を受けたり、登記手続を行ったりして、遺産を相続人らに引き渡す任務を負います。
遺言執行者になったら?遺言執行者の義務について
遺言書で遺言執行者に指定されるなどして、遺言執行者に就任すると、遺言執行者としての義務を負うこととなります。具体的には、遺言の内容を相続人に通知する義務(民法1007条2項)、相続財産の目録を作成し、相続人に交付する義務(民法1011条1項)、善管注意義務(民法1012条3項)等です。つまり、遺言執行者に就任したのであれば、責任を持って相続財産を管理し、遺言の内容を実現させなければなりません。
また、仮に途中で遺言執行者を辞めたい場合でも、民法1019条2項は、「遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる」と定めているため、正当な理由があること、そして家庭裁判所の許可を得ることといった条件をクリアする必要があります。辞任するにも合理的な理由が必要となりますので、もし遺言書内で遺言執行者に指定されていた場合には、遺言執行者に就職することを承諾するか否かよく検討し、難しいと感じる場合には、辞退する旨を速やかに相続人に通知するようにしましょう。
最後に
このように、遺言執行者という役目は、遺言の内容をきちんと実現してもらうためには重要なものですが、その職務に伴う責任も大きい役目です。専門家を指定する場合には報酬が発生するのが通常です。
遺言書を作成する際に、遺言執行者を指定すべきかどうかは判断が難しいかもしれませんが、自分の作成する遺言書の内容が、相続人間で対立を生みそうだと感じる場合や、相続人の中に音信不通になりそうな人がいる場合などは、相続の手続を円滑に進めるためには遺言執行者を指定しておいたほうが望ましいといえます。
他方、遺言執行者に指定された人の方からすると、遺言執行者には上記のような義務や責任を伴うものですから、荷が重いと感じるかもしれません。自分で引き受けるのに困難を感じるようでしたら、辞退するか、遺言執行の手続を弁護士に委任することを前提に引き受けるなど、よく検討したほうが良いと思われます。
今回は、遺言執行者という少し耳慣れない制度について、ご説明いたしました。遺言書を作成するときには、このような細かな検討事項がありますので、ぜひ一度弁護士にも相談してみることをおすすめいたします。