Columnコラム

相続における預貯金の取扱いについて(最高裁判例から)

相続における預貯金の取扱いについて

相続の預貯金の扱いが、近年変更になったことはご存知でしょうか。2016年12月、最高裁が大法廷を開き、普通預金債権等が相続の開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象になると決定しました。これは、従前の最高裁判例を変更されたものでした。

それまでの預貯金の取扱いがどう変わったの?

実は、預金者が亡くなって相続が発生したとき、従来は、銀行に対する預貯金債権は、相続の開始と同時に当然に、共同相続人間で相続分に応じて分割されると解されていました

たとえば、父親が4000万円の預金を残して亡くなり、母親、長男、二男の3人が相続人だった場合、父親が遺言書を残していなければ、母親が2分の1、長男と二男がそれぞれ4分の1ずつの相続分をもつことになります。

これまでの判例

このとき、これまでの判例では、父親が亡くなって相続が開始したのと同時に、父親の預金債権は、母親に2000万円、長男と二男にそれぞれ1000万円ずつ分割されると考えていました。すなわち、母親は、銀行に対して、自分の相続分である2000万円について払戻請求をすれば、単独で払戻しを受けることができるとされていたのです。

ところが、今回の最高裁決定を受けて、預貯金債権は相続の開始と同時に分割されず、遺産分割協議を経て分けなければならない、とされました。つまり、母親は、銀行に対して自分の相続分である2000万円について払戻請求をしても、長男と二男の合意がなければ、払戻しを受けることはできない、ということになります。

実務への影響は?

こうした預貯金の取り扱い変更により、実際の相続については何か影響があったのでしょうか。

そもそも、これまでの預貯金の取扱いの下でも、ほとんどの金融機関が、他の相続人全員の合意がなければ、相続人の1人から預貯金の払戻請求を受けても応じてくれませんでした。

なぜなら、金融機関としては、この相続について遺言書が存在するのか、相続について欠格事由はないのか、といった情報を知る由がなく、窓口に来た人が本当に払戻しを受けてよい相続人なのかどうかを判断できないため、二重払いをしなければならないリスクを負っているからです。

そのため、相続人全員の合意がなければ預貯金の払戻しを受けられないという事態は、最高裁決定の前後で大きな変更はありませんでした。

ところが、相続人全員の合意が得られなかったり、遺産分割協議をしてもなかなかまとまらなかったりする場合に、先に預貯金の払戻しを受けられないと困る次のようなケースがあります。

・相続人の生活費や治療費を捻出しなければならない場合

・亡くなった方の葬儀費用や公共料金、税金を支払わなければならない場合

これまでは上記のような場合に、例外的に預金の一部払戻しを認めてくれる金融機関も、わずかではありますが存在していました。しかし、今回の最高裁決定が出たことで、金融機関としては、これまで以上に、例外的な扱いを認めない傾向を強めています。

手元資金が必要な場合は、どうすればよいのか?

最高裁決定の補足意見では、相続人において至急手元資金が必要になった場合に、「仮分割の仮処分」という手続を利用するよう促しています。これは、裁判所に対して緊急の必要性がある事情を明らかにして、預金債権を仮に分割するよう求めるものです。

もっとも、裁判所の手続を利用しなければならないため、利用する相続人にとっては不案内なことも多く、手間やコストの負担がかかります。そのせいか、これまでもこの制度を利用した事例はほとんどありませんでした。

他方で、現在審議されている民法改正(相続分野)では、遺産分割前でも相続人による預金の仮払いを認める制度が盛り込まれる見通しですが、どこまで相続人にとって使いやすい制度になるのか、現時点では不透明です。

いざというときに手元資金がなくて困らないためにも、万が一の場合に備えて一部現金化する、遺言書の作成や信託利用などの対策をすることが重要になるでしょう。

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