遺産分割協議「10年ルール」や3年以内の相続登記義務も…令和3年民法・不動産登記法改正により発生する大きな変化
令和3(2021)年2月10日に法制審議会民法・不動産登記法部会において民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案(案)が決定され、同年4月21日の参議院本会議で成立しました。改正法は公布から2年以内に施行される予定です。
これにより、土地の相続登記の義務などが導入されるなど相続手続等については大きな変化が発生します。特に、特別受益等の具体的相続分に関する主張に10年間のタイムリミットが設けられることになり、遺産分割協議が長引いている方は、特に、今から注意が必要です。
今回は、民法等改正により予想される影響について紹介します。
主眼は所有者不明土地対策・・・相続登記の義務化、土地の国庫への返納制度の新設
今回の改正の背景にあるのは、所有者不明土地問題対策といわれています。所有者不明土地とは、その名前の通り、「誰が所有しているのかが分からない土地」を指し、近年の高齢化、核家族化などで急増、社会問題化しています。
具体的には、
・登記簿や固定資産課税台帳など所有者がわかる台帳が更新されていない土地
・複数の台帳で記載内容に相違があり、土地の所有者の特定が難しい土地
・所有者は特定できても、その所有者の所在が不明な土地
・登記名義人が既に亡くなっており、その相続人(所有権者)が多数となっている共有地
などを指します。例えば、相続の際に親の家や土地の名義変更をせずにいて、長年放置された土地は「所有者不明土地」となります。
2017年12月に所有者不明土地問題研究会(一般財団法人国土計画協会)が出した報告によると、「2016年時点の所有者不明土地面積」は約410万ヘクタールあり、なんと、日本の国土のうち、九州の面積以上に匹敵するそうです。
この所有者不明土地のうち、相続登記されていないものが6割強、住所変更登記の未了が3割以上といわれており、これら膨大な土地が所有者不明のため、周辺環境が悪化したり、土地の有効活用ができなかったりする問題が起きていました。このような状況を踏まえ、今回の改正では、相続開始から3年以内の登記が義務付けられたほか、管理が難しくなった土地を国庫に返納できる制度(相続土地国庫帰属制度)が新設され、持ち主が誰かわからない土地の管理が強化されることになりました。
遺産分割の話し合いに実質的な期限が設けられる
また、これまでは、相続放棄の期限や、相続税の申告などについては相続発生後からの期限が決められていましたが、遺産分割には具体的な期間の制限は設けられていませんでした。そのため、相続人間での話し合いが遅々として進まなかったり、相続人が不明なまま、話し合うことすらしなかったり、遺産分割がなされないまま放置されているようなケースがありました。
今回の改正では、特別受益や寄与分といった具体的相続分に関する法的主張を行うことについて「10年」の期限が設けられました。相続人間の合意による遺産分割協議をすること自体については、従来通り期限が設けられたわけではありませんが、法定相続分以上の相続分を主張する根拠となり、かつ、紛争の長期化の一因となっている論点について、主張期間の制限がつくことになります。
これは、遺産分割の争いに実質的な期間制限がをかけることで、相続紛争をなるべく早く解決させるとともに、所有者不明の土地が生じないようにする目的があると言えるでしょう。
【注意】改正法は既に発生している相続についても適用されます
特に注意が必要なのは、改正法は、施行日前に相続が開始した場合についても、遡って適用されます。遺産分割の具体的相続分の主張については、①相続開始から10年を経過するとき、または、②施行の時から5年を経過するときのいずれか遅い方が期限とされています。(改正法附則3条)
また、相続登記の申請義務化についても遡及適用されますので、①施行日または②自己のために相続開始があったことを知り、かつ不動産の所有権を取得したことを知った日のいずれか遅い日から3年以内―の相続登記が必要となります。現在所有している不動産で正しく登記がされていない物件がある場合には、早めに登記を済ませておいたほうが良いでしょう。
なお、今回の改正では、上記に紹介した以外にも、民法の共有に関する規定についても改正されており、共有物管理のルールなどにも変更が加わっていますので注意が必要です。
今回の改正は、相続手続きに影響する大きな変更を含んでおり、改正施行後を見据えた対応が必要になってきます。現在、遺産分割協議が進んでいない方、また、「塩漬け」になってしまっている、なってしまいそうな土地・不動産でお困りの方は、相続・生前対策に強い専門家にご相談ください。