Columnコラム

遺産に他人に貸しているマンションがある場合の相続・遺産分割の注意点

遺産に他人に貸しているマンション(以下、単に「賃貸マンション」と言います。)が含まれている場合、その相続遺産分割に特有の注意点があります。賃料収入が発生する物件では、財産価値の評価や管理方法を誤ると、それがトラブルの原因となることがあります。本記事では、法律面を中心に、賃貸マンションの相続に関わるポイントを解説します。 

相続開始直後の賃料管理

被相続人が亡くなった後も、マンションの賃貸契約は原則として有効に存続します。そのため、相続人間で遺産分割協議がまとまるまでの間も賃料収入が発生しています。 

そして、相続開始後、遺産分割が確定するまでの賃料は、相続人全員の共有財産とみなされます。そのため、賃料を受け取る口座が被相続人名義であった場合、その管理をどうするかを相続人全員で決める必要があります。 

実務上は、賃料の管理を行う相続人の代表者を1人決め、口座を一時的に管理することが多いです。管理者は受領した賃料を適切に保管し、最終的に相続分に応じて分配しなければなりません。 

遺産分割における注意点

賃貸マンションは、家賃収入を生んでいるので、どのような形で相続するのが良いかについて、相続人の間で意見が割れることも多いです。 

賃貸マンションを含む遺産分割の協議では、概ね以下のいずれかの方向で考えていくことになります。 

⑴ 賃貸マンションを特定の相続人が単独で取得する 

相続人の人がマンションを取得することにより、その後の管理や運営は取得した相続人が一人で行えばいいので、スムーズになり、トラブルも起きにくいと言えます。もっとも、単独で取得する代わりに、他の相続人に対して代償金他の相続人の法定相続分に足りない金額の補填支払が必要になる場合もあり、その支払ができるかどうかがポイントとなることが多いです。 

⑵ 共有相続する 

取得を希望する複数の相続人で、マンションを共有名義で所有する形で相続する方法です。上記⑴の単独相続の際に問題となりうる代償金の支払いを回避できるので、そのような点からすると遺産分割を早期に終えられるといえます。 

しかし、共有名義で相続する場合、相続後にいろいろと問題が発生する可能性があるので留意が必要です(後ほど詳しく説明します)。 

⑶ 売却して現金で分割する 

マンションを第三者に売却し、その代金を分ける方法です。売ってお金で分けるので、わかりやすく公平な分割が図れるといえます。 

もっとも、賃料収入という将来的な利益を失うことになりますし、売却時の状況によっては、相場より低い金額で売却せざるを得ない場合もありますので、売却の進め方などには注意する必要があります。 

 賃貸マンションを共有で相続する場合の留意点

共有名義で相続をした場合、相続した後に共有物件の管理方法などにおいて問題が発生する可能性があるので注意が必要です。 

⑴ 管理・運営のルールを明確に 

賃貸物件は、賃料の徴収や修繕、税金の支払いなど、継続的な管理が必要です。共有名義の場合、これらを誰がどのように行うのか、事前にルールを決めることが重要です。 

賃料が約束通りに分配されない、予定通りに振り込まれない、振り込まれている金額が変わっているが説明もないといったようなことでトラブルとなりがちですので、役割分担や分配の時期・内容などは明確にして、情報共有も適切に行う必要があります。 

⑵ 物件についての意思決定の難しさ 

共有名義で相続する場合、マンションの管理・処分についての意思決定は共有者の同意に基づいて行う必要があります。 

たとえば、物件の売却を行う際には共有者全員の同意が求められます。意見が一致しない場合には、共有者の誰かが売却したい場合でも手続きが進められません。 

また、共有物の変更に当たる行為を行うときにも共有者全員の同意が必要です。民法では、共有物の形状または効用の著しい変更を伴わないものは「変更」に該当せず、全員の同意を要しないとされていますが、その裏を返せば、たとえば、増改築や部屋の間取りの大幅変更を伴うようなリフォームを行う場合等には、共有者全員の同意が必要になります。 

また、共有物の管理行為は共有者の持ち分価格の過半数の同意に基づいて行う必要があります。賃貸借契約の締結は基本的に管理行為に該当します。また、 

共有不動産をどのように管理・運営等していくかについては、「重要そうなこと」は、共有者の意思統一が必要になるといえますので、その点に留意が必要です。 

 共有関係の解消困難を伴う 

前述の通り、共有者の一部が売却や名義変更を望んでも、他の共有者の同意がなければ進められません。意見の相違が長引くと、マンションが利益を生まないまま、いわば「塩漬け」の状態になるといったリスクもあります。 

共有物の管理や処分について意見がまとまらない場合、最終的には裁判所の判断によって共有関係を解消してもらう必要があります(共有物分割請求)。この手続きにはそれ相応の時間と費用もかかります。不動産を共有で相続するときには、最悪、共有関係を解消したくなったときに簡単に話が進められない可能性があることも念頭に置くべきです。 

まとめ

このように、賃貸マンションの相続は、財産価値の大きさや賃料収入が絡むため、通常の遺産分割よりも注意が必要です。特に、共有で相続する場合は、管理や運営のルールを明確にし、トラブルを防ぐための対策を講じる必要がありますし、最終的に共有を解消したいと考えた場合にも簡単には進まない可能性もあることを理解しておく必要があります。どのように相続をするかは慎重に検討するべきでしょう。 

賃貸マンションに限らず、相続に関する法律問題は複雑であり、家族間の紛争回避と財産の有効活用をどのように両立するかは難しい課題といえます。 

相続人間で合意を形成することが難しい場合も多いですので、弁護士等の専門家の適切なアドバイスを受けながら手続きを進めることをおすすめします。

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