Columnコラム

デジタル遺産の相続 その内容~必要な対応・準備

デジタル遺産とは

近時、「デジタル遺産」という言葉をよく目にするようになりました。

一般的な感覚として、亡くなった人が遺した(ないし関係する)データや情報を保存等している媒体やサービスのことを漠然とイメージしてこの言葉が使われているようですが、デジタル遺産という言葉は、正式な法律用語ではなく、これを明確に定義するような法律も共通する解釈なども現在のところはありません。

この点、「遺産」とは、亡くなった人が有していた一切の財産であり、その有形・無形であるかどうかや、財産価値がプラス・マイナスであるかどうかなどは問いませんが、亡くなった人に固有の権利(法的には「一身専属的」な権利と言います)他方で、日本の法律では、データや情報という無形のもの(法律用語では「無体物」といいます)はそれ自体が所有権の対象にはならないとされています。そのため、デジタル遺産の相続ということを考える場合には、データ・情報という無形のものを法律上(ないし契約上)の取り扱いにしたがって、どのように引継ぎをするかということを念頭に置いて対応する必要があります。

「デジタル遺産」の種類

では、デジタル遺産としては、どのようなものが想定されるでしょうか。列記すると次のような物が考えられます。

・ネット銀行の預金
・ネット証券の金融商品等
・仮想通貨(暗号資産)
・電子マネー、決済サービスの残高
・ポイント・マイレージ
・電子メールのデータ
・クラウドサービス・ストレージのデータ
・所有パソコンなどの記録媒体に保存されたデータ(写真、音楽など)
・SNS・ブログなどのアカウント

デジタル遺産の相続に必要な手続

デジタル遺産の相続については、上記の通り、当該情報・データ等が保存されている媒体や保有・管理されているサービスなどの状態・契約関係などに応じて、相続するために必要な手続を考える必要があります。

先に列記したものについては、概ね次のような手続・対応が想定されます。

ネット銀行やネット証券会社で保有されている金融資産

預貯金など金融資産については、一身専属的な財産ではありませんし、ネット銀行やネット証券会社と従来からの銀行・証券会社との違いは、実店舗があるかどうかといった点しかなく、銀行や証券会社に対して預金や株式等を預けていたという状況にはネット銀行・証券会社と従来の銀行・証券会社に変わりはありません。

銀行や証券会社所定の手続にしたがって相続が可能です。

電子マネーや決済サービスの残高、ポイント、マイレージなど

これらは金銭と同様の価値があるといえますが、それが相続の可能である(一身専属的な権利とされていない)かどうかは、各サービスとの契約(規約)の内容次第です。相続可能とされている場合も多いですが、個別に相続の可否や可能な場合の手続を確認する必要があります。

暗号資産(仮想通貨)について

近年は、ビットコインやイーサリアムなどの、仮想通貨(暗号資産)と呼ばれる、現実の物としては存在しないものの経済的価値のあるものとして通貨のように取引がされるものがあります。仮想通貨(暗号資産)は、それ自体に財産的価値が認められており、相続の対象となります。

もっとも、仮想通貨(暗号資産)は、「ウォレット」と呼ばれる仕組み等で保有・管理がされていますが、それは、取引所の口座のようなわかりやすい形のものだけではなく、保管専用のオンラインサービスの形であったり、パソコンやスマートフォンなどの端末専用のアプリケーションの形であったり、仮想通貨(暗号資産)の保管専用のハードウェアであったりと、様々な種類のものがあります。

取引所口座からの相続に関しては証券口座の相続と同様に取引所の規約等に従って手続きを取ることになると考えられますが、その他の保管方法の場合は、いずれの保管方法であったとしても、ウォレット内の仮想通貨(暗号資産)にアクセスするのに必要なIDやパスワードがわからなかったり、保管している媒体自体を紛失したりすると、仮想通貨(暗号資産)を取得、移動等することが全くできなくなってしまいますので注意が必要です。

電子メール、クラウドサービス、記録媒体に保存されたデータ

電子メールも含め、何らかのデータが記録されている媒体がある場合には、その媒体の所有権を相続した相続人が、その中身に存在するデータという限度において取得することが可能です。

しかし、電子メールサービスの提供会社が保存しているメールデータや、クラウドサービス上に保存されているデータに関しては、サービス提供者において、そのデータはサービス契約者個人だけの一身専属的な権利とされていることが多いと考えられます。各サービスの規約の内容次第といえますので、個別に確認して対応を検討する必要があります。

デジタル遺産の相続についての準備

以上のとおり、デジタル遺産の相続には、それがデータ・情報といった無体物であることから、相続・引継ぎができる場合でも個別の対応を求められる可能性が非常に高いと言えます。

引き継ぐ側の相続人からすると、財産の有無だけでなく、引継ぎを行うために必要な情報などが十分に知らされていないと適切に相続手続を完了することが難しくなります。

そのための望ましい事前準備や、問題に直面した場合の事後的な対応としては次のようなことが考えられます。

遺言書の作成

遺言書を作成すれば、どの遺産を誰に相続させるかということを指定することができます。遺言の対象とできる財産については、これを具体的に明確化して、承継者を定めることで確実に引き継がせる方法として有用と言えます。

もっとも、前述のように、デジタル資産のうち、サービス提供者との関係で一身専属的な権利とされているものについては、遺言で相続させることができる遺産ではありませんので、そのような権利は遺言で相続させるということができません。記載したとしても、権利の移転などがそのまま実現できるものではありませんが、記載することによって、どのようなデジタル遺産が存在するのか等の事実を明らかにするという意味はあるものと言えます。

死後事務委任契約の利用

例えば、亡くなったあとにデータの消去などをしてほしい場合などには、遺言で相続人に対するそのような依頼を記載したとしても、そのデータが遺産ではない場合、遺言でその処理を義務づけることはできません。負担付遺贈という形で、他の遺産を引き継ぐ条件として、当該データの消去を任せるという方法は考えられなくもありませんが、遺贈された人は、遺贈を放棄することもできますし、負担を履行しなかった場合も、事後的に遺贈の取消しがされることになるだけであるため、確実に実行してもらえる保証はありません。

そのため、信頼できる誰かとの間で、あらかじめ、自分が死んだ後のデータの消去等の処理に関しての委任契約を結んでおき、死後のデータ処理を任せるという方法が考えられます。死後事務委任契約の場合は、デジタル遺産が相続財産にあたるかどうかに関係なく、委任者と受任者の間の契約で実施内容を決められますので、デジタル遺産の処理・管理を定める方法として有用であると言えます。

その他の対策

デジタル遺産を相続人に円滑に引き継いでもらえるようにするには、各財産・サービス等のパスワードやアカウント情報を伝達し、把握してもらえるかどうかということが重要といえます。

その方法として、あらかじめ必要な情報を共有しておくということも重要です。そのための確実な手段があるかと言うと難しい問題ですが、例えば、アカウント情報・パスワードの一元管理のできるアプリケーションを利用し、そのアプリケーションのアクセス情報のみを共有しておくなどの方法で、省力化を図ることも重要と考えられます(その場合も、どのように最低限の必要情報を共有するかということは、データ管理の安全性の観点からもよく考える必要があるでしょう)。

まとめ

以上に見てきたように、デジタル遺産の相続については、法的な見方としては、まず、そのデジタル遺産と言っているものが、そもそも民法上の「遺産」にあたるものなのかどうかを考えて対応をする必要があります。

データ等が記録された媒体については、その媒体の所有権を相続することが可能ですし、ネット銀行・証券等に預けてある預貯金や金融商品、仮想通貨(暗号資産)などの財産的価値があり、一身専属的な権利には当たらないので、遺産として対応・処理をしていきます。

注意しなければならないのは、サービス提供者との契約で内容が定まっている権利については、相続ができるかどうかはその契約内容(利用規約の内容)によって変わってくるため、個別に確認する必要があります。

なお、SNS・ブログなどのサービスについては、利用者(亡くなった人)の一身専属的なものとされていることが多いと思われますので、相続人がそのまま契約を承継するということは通常できないと考えられます。亡くなられた方が使用していた機器からアクセス可能な状態であったり、ID・パスワードを知っているような場合は、利用ができなくなってしまう前に、内容のバックアップを取ったりするといった事実上の対応ができるかもしれませんが、それもケース・バイ・ケースでしょう。

アカウント等へのアクセスに必要な情報が全く不明な場合は、亡くなられた方のデータ等を保存したくてもどうしようもないこともあると思われますが、専門業者に亡くなられた方の機器のデータ解析を依頼することで判明するケースもあるかもしれませんので、どうしても必要な場合にはそのような手段に望みを託すこともあるかもしれません。

データ等のデジタル遺産については、財産的な価値のある遺産であればともかく、そうでないものに関して、亡くなる前にあらかじめどれを保存しておこうとかどのようにしておこうといったことを決めておいたりすることは難しいと思いますが、ここに述べたような問題点があるといったことは念頭においたうえで、どこまでを事前に対処しておくかを考える必要があるといえます。

デジタル資産の相続は複雑な問題を伴う場合が多く、弁護士の専門知識を活用することに大きなメリットがあります。弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所では、デジタル資産の相続も含む、全般的な相続の対策・手続を支援します。デジタル資産の相続について、より具体的な相談をお考えの方は、ぜひ丸の内ソレイユ法律事務所にご相談ください。

 

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