個人事業主の相続・事業承継:手続と注意点

個人事業主が事業を営む中で、「事業承継」や「相続」の問題にはいずれ直面することになります。事業をスムーズに後継者に引き継ぐためには、法律上の問題点や手続きを事前に理解しておくことが重要です。 

ここでは、個人事業主の相続・事業承継の特徴や、手続の基本的な内容や注意点について解説します。 

個人事業主と会社の事業承継の違い 

個人事業主は、その事業上の契約や財産の所有を個人の名義で行っています。会社においては、株主が株式の所有を通じて、会社名義財産や経営権間接的に所有するという形態が取られているのとは異なるため、事業承継においても、以下のような違いがあります 

個人事業主の財産と事業の特性 

特に、個人事業主の場合、事業資産と個人資産の区別が曖昧な場合があり、それが相続や事業承継の際に問題となることがあります。

例えば、事業用財産としては、店舗や設備、在庫商品、事業用の預貯金、売掛金といったものがあると思いますが、それらが、自宅不動産や生活用の預貯金などの個人資産と混在している場合があります。

そのような場合、事業承継の時には後継者に譲渡等するものを適切に区別する必要があります。また、相続のときには、事業用資産もその他の資産も、同じ個人名義の資産ということになってしまいますので、生前に特別な対策を取っていなければ、事業用のものも遺産の一部として、遺産分割の手続を行わなければなりません。 

個人事業主が事業承継や相続対策を行わないことによるデメリット 

先に述べた通り、個人事業主の場合、事業用の財産も契約も個人の名義になっているため、何の対策もしないまま急に事業主が亡くなってしまったりすると、誰かが事業を引き継いで継続していくにしても、相続の問題が絡んできます。 

親族の誰かが事業を引き継ぐ場合には、事業用財産も含めた遺産分割の手続きをしなければならないので、仮に、事業用財産が遺産の多くを占めているような場合には後継者である親族が事業用財産をすべて引き継ぐとすると、他の相続人の取得できる遺産が少なくなり不公平となるため、争いとなることが考えられます。 

また、親族以外の第三者に事業を引き継がせる予定であった場合には、引き継ぐ予定であった親族外の第三者は、相続人ではないので、事業財産を引き継ごうとする場合には相続人との交渉・調整が必要となります。 

いずれの場合も、相続人がみな協力的であれば問題ないでしょうが、そうでなければスムーズに事業を承継することに困難を伴います。 

個人事業主が事業承継するときの手続 

個人事業主が事業承継を行うときには、法人の事業承継とは異なり、公的な手続自体は比較的簡明です。細かい手続の説明は省略しますが、現在の事業主が廃業届等の書類を税務署に提出し、後継者が開業届等の提出を行います。 

また、事業を行うために許認可が必要な事業の場合は、後継者において許認可を新規取得する必要があります。 

それらと並行して、現経営者の事業用財産や取引先等との間の契約について、引継ぎが可能なものについて、譲渡・名義変更を個別に行っていきます。財産の引継ぎについては、その財産がどの程度の価値があるものなのか、その引継ぎの方法が、売買なのか贈与なのか(有償なのか、無償なのか)、有償であったとして対価はどの程度支払ったのか、などに応じて、贈与税が発生する可能性がありますので、事前によく検討しておく必要があります。 

上記の通り、個人事業主の事業承継は、法人の場合にオーナーの地位を後継者に交代するというイメージのものであるのとは違って、事業承継の流れも異なってきます。現経営者が廃業するにあたって、後継者が新しい事業を開始して、そこに現経営者が持っていた財産ないし経営資源を引継がせるというイメージをしていただいたほうがわかりやすいでしょう。 

個人事業主の相続対策

個人事業主が、生前に事業承継を行わず、何も対策せずに亡くなってしまった場合、前述の通り、事業財産も遺産として相続の対象となり、遺産分割の手続きを取らなければならなくなります。 

後継者が決まっているときには、確実に事業用財産を後継者に承継できるように対策をとっておく必要があります。 

基本的には、引退する時期を決めて税金面の検討も含めた準備をして、後継者に引継ぎを行うべきですが、引退時期が決められないという場合には、少なくとも遺言書の作成は検討すべきです。遺言書を作成する際には、事業用資産とそれ以外の洗い出しをしっかり行い、どの財産を誰に相続させるかを明確に記載することに留意が必要です。 

個人版事業承継税制の活用 

なお、2019年にいわゆる「個人版事業承継税制」が創設されています。これは、事業用資産(不動産や設備、営業権など)を後継者に引き継ぐ際、相続税や贈与税の納税が猶予される制度です。事業承継後も一定期間事業を継続することで、最終的には納税が免除される場合がありますので、事業承継を行うにあたってはその適用ができないか検討しておくべきです。 

詳細についてはここでは省略しますが、後継者が事業を一定期間継続すること(通常5年以上)、対象となる資産が事業用であること、事前に都道府県知事への申請をしなければならない、といった要件があります。制度を適用するために細かい要件があり、また、要件を満たさなかった場合には猶予された税金が一括で課せられるといった可能性もあるため、税理士のサポートが必要です。

まとめ 

個人事業主の相続や事業承継は、個人名義で事業を行っているという特性から、その手続が会社の事業承継の場合と異なってきますし、部分的に会社の場合より煩雑になることもあります。事前に適切な準備をすることで、相続人間のトラブルを回避または軽減し、事業の円滑な承継を進めることができます。 

事業の承継に不安や疑問をお持ちの個人事業主の方は、必ず弁護士、税理士その他専門家に相談してください。 

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