自筆証書遺言の効力

遺言には種類がありますが、簡単に作成できて使いやすいのは「自筆証書遺言」です。有効期限はなく、また、作成者の意思でいつでも撤回したり、変更したり、新しい遺言を作成することもできます。複数の遺言が存在する場合は、最近に作成されたものが有効となります。

ただし、自筆証書遺言の場合、法律で定められた以下の要式を満たしていないと無効になるリスクがあるので注意が必要です。

1.自筆証書遺言の要件

⑴ 全文を自筆で書く

「財産目録」の部分のみ、パソコンを利用したり、資料を添付しても構いませんが、目録のページごとに署名押印をする必要があります。

⑵ 日付を入れて、署名押印する

印鑑は認印で構いません。

⑶ 訂正に定められた方式がある

修正液を使用したり、塗りつぶしたりして訂正してはいけません。削除するときは、削除箇所に二重線を引いて近くに押印し、余白部分に「●字を削除」と書いて署名します。加筆するときは、吹き出しで文書を挿入して押印し、余白部分に「●字を加入」と書いて署名します。

⑷ 書面で作成する

録音・録画による遺言は認められません。

 

2.遺言でできること

自筆証書遺言に限らず、遺言によって指定された相続方法は、法定相続に優先するため、遺言を遺すことで様々な効力を生じさせることができます。なお、遺言は、作成者が亡くなった時点から効力を生じます。作成者が亡くなるまでは、遺言で遺産を取得する予定の人であっても、何ら権利はありません。

⑴ 特定の相続人に遺産を取得させる

特定の相続人に、遺産の全て、あるいは法定相続分よりも多い遺産を取得させることができます。

⑵ 相続人ではない者に遺贈したり、寄付をしたりする

内縁の妻や看病してくれた人など、相続人以外の人に遺産を取得させる「遺贈」をすることができます。また、非営利団体などに寄付をすることもできます。

⑶ 特定の相続人を廃除する

虐待や犯罪行為を受けたことなどを理由に、特定の相続人に遺産を取得させたくない場合は、当該相続人を廃除することができます。

⑷ 遺産分割の方法を指定する、あるいは遺産分割を禁止する

遺産分割の方法を指定したり、第三者に委託したりすることができます。また、相続開始から5年以内であれば、遺産分割を禁じることもできます。

⑸ 遺言執行者を指定する

遺言に基づき、不動産の相続登記や金融機関での預貯金の解約手続などを行ってくれる遺言執行者や、遺言執行者を指定する人を指定することができます。

⑹ 子を認知する

未婚者との間にできた子がいる場合、遺言で「子を認知する」と書いておけば、死後認知が可能になります。

⑺ 後見人を指定する

死後、未成年の子が残されて親権者がいなくなる場合には、遺言で第三者を後見人として指定することができます。

 

3.自筆証書遺言を発見したら

自筆証書遺言を発見したら、原則、家庭裁判所で検認を受けなければなりません。検認を受けずに開封すると、過料という制裁が課されるおそれがあります。また、検認を受けた遺言書であっても、法律で定められた要式を満たしていない場合は無効となります。

もっとも、法改正により、自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる制度ができました。この制度を利用すると、預ける際に法務局の担当者に遺言書を確認してもらうことができるため、要式違反で無効になるリスクが減り、また、検認も不要になるので便利です。

 

4.無効またはトラブルになりやすい自筆証書遺言と、その対処法

⑴ 要式を満たしていない

上記1の要式を満たしておらず無効になってしまう自筆証書遺言は実に多いです。また、死後に検認が必要となり、相続人への負担もかかります。これを防ぐには、上述したように法務局に預かってもらう制度を利用したり、公正証書遺言を利用するのがよいでしょう。

⑵ 作成者の真意で作成されたものかどうか怪しい

遺言が作成された当時、作成者が認知症等で認知機能を失っており、遺言を作成する能力がなかったと考えられる場合や、作成者とは別の者の手で偽造されていたり、書き換えられていることが推測されるような場合も無効となります。これを防ぐには、遺言を作成する能力に問題がない旨を医師に診断してもらったり、公正証書遺言を利用して公証人等の公平中立な第三者に確認してもらうのがよいでしょう。

⑶ 法定相続人の遺留分を侵害している

法定相続人の遺留分を侵害する内容の自筆証書遺言も、要式を満たしてれば法的には有効です。しかし、死後に遺留分に関するトラブルが発生するリスクが高く、相続人に大きな負担がかかります。これを防ぐには、遺言を作成する際に遺留分を侵害しないよう配慮したり、相続人ともよく話し合い、作成者の真意を誠意をもって伝えるなどして良好な関係を築いておくのがよいでしょう。

 

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