遺言書の偽造が疑われる場合の対処法

自筆証書遺言を法務局において保管する遺言書保管制度が創設され、令和2年7月から運用が開始されています。こうした動きもあり、年々自筆証書遺言の作成数は増加しています。

偽造されやすい遺言作成方法

遺言書の作成方法はいくつかありますが、気軽に作成できる反面、偽造されやすいという難点があるのが自筆証書遺言です。自筆証書遺言は、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書して押印することによって作成しますが(民法968条)、他の方式による遺言と異なり、公証人によるチェックが行われません。また、原本が公証役場に保管される公正証書遺言や証書が封印される秘密証書遺言と異なり、自筆証書遺言は、容易に内容を書き換えることができるという特徴もあります。

そのため、自筆証書遺言が思わぬ形で発見されたような場合には、偽造が疑われるということも十分にあり得ます。

2 偽造が疑われる遺言書が見つかった場合の対処法

自筆証書遺言を発見した場合、偽造が疑われるか否かにかかわらず、遺言書の保管者は、相続の開始(遺言者の死亡)を知った後、遅滞なく、家庭裁判所に対して当該遺言書の検認を申し立てる必要があります(民法1004条1項)。

遺言書の検認とは、遺言の方式に関する一切の事実を調査して遺言書の状態を確認し、その現状を明確にするものであり、後日の紛争に備えて、偽造・変造を防止し、遺言書の現状を保全する手続をいいます。

もっとも、検認は、遺言書の状態を確認するのみですので、遺言の有効・無効について判断されるわけではありません。

そのため、検認手続の過程で自筆証書遺言の内容を確認し、偽造の疑いを持った場合には、別途裁判所において遺言無効の確認を求める必要があります。この場合、原則として、まずは遺言無効確認調停を申し立て、調停が不調になった場合は、遺言無効確認訴訟を提起することになります。

 

3 偽造の立証方法

遺言書の筆跡が、遺言者の筆跡と明らかに異なる場合には、遺言書は偽造されたという方向に判断が傾くため、専門鑑定人による筆跡鑑定が行われることがあります。

また、遺言書作成当時に、遺言者が病気や認知症で遺言書を書くことができない状態であったにもかかわらず、複雑かつ詳細な内容の遺言書が理路整然とした文章で作成されていれば、遺言書は他人が書いたという方向に判断が傾きます。そのため、長谷川式認知症スケールやカルテ、介護日誌なども重要な資料となります。

さらに、遺言者と不仲であった人に多くの遺産を与える内容になっているなど遺言内容が不自然な場合にも、遺言書は他人が書いたという方向に判断が傾くため、遺言者と相続人または受遺者との人的関係や交際状況等も重要な判断要素となります。

 

4 遺言書を偽造した場合のペナルティ

相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者は、相続人となることができません(民法891条5号)。もっとも、偽造した者が被相続人の子または兄弟姉妹であり、その者に子があるときは、代襲相続が認められるので、偽造した者の子は被相続人の遺産を受け取ることができます。

また、遺言書を偽造した場合には、刑法上は有印私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立し、3月以上5年以下の懲役に科される恐れがあります。

5 そもそも偽造を防ぐには

そもそも遺言書を偽造されないためには、多少費用や手間がかかっても、公証人の立ち会いのもとに作成され、公証役場で遺言書の原本が長期間保管される公正証書遺言を利用することをおすすめします。

また、自筆証書遺言の場合でも、令和2年7月10日以降は法務局での保管が可能になりましたので、自筆証書遺言の保管制度を利用することによっても、偽造や紛失のリスクを軽減することが可能です。

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