遺贈と相続の違い
遺贈については、別なコラム(遺贈とは?)でもご紹介していますが、ここでは、「では、遺贈と相続は何が違うのか」について、特に不動産に関連する事柄についてご説明します。
遺贈とは、遺言により財産を渡すことをいいます。遺贈は、相続人に対しても、相続人以外に対しても行うことができます。誰を指定することもでき、法人が相手でも可能です。
しかし、実務上は、相続人に対して財産を引き継がせようとする場合には、通常「相続させる」旨の遺言がなされます。その理由は、遺贈という形式で遺産の承継を行うと、相続よりも事務手続きの負担が大きくなったり、税金も高くなったりするからです。具体的場面は次のとおりです。
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不動産承継への影響
遺贈と相続では不動産の承継の場面で大きな違いが生じます。
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所有権移転登記手続の際の必要書類
遺贈や相続で不動産を取得する場合、受遺者または相続人に所有権を移転させる手続きが必要になります。相続の場合、相続人が単独で登記申請をすることができるのに対し、遺贈の場合の登記申請には、法定相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明書等が必要になります。受遺者と法定相続人の関係が良好であれば問題はありませんが、対立関係にあると、必要書類の収集に協力してもらえない可能性があります。ただし、遺言執行者がいれば、受遺者と遺言執行者で手続きが可能です。そのため、遺言書の実現に不安がある場合は、遺言執行者を指定することが必要です。
なお、令和3年に成立した不動産登記法の改正で、遺贈を受けた者(受遺者)が相続人の場合には、遺贈の場合でも受遺者が単独で登記申請ができることとなりました。
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登録免許税
不動産の所有者が変更した場合、新たな所有者に登録免許税が課されます。税額は、「固定資産税評価額×税率」で計算しますが、相続の場合の税率が0.4%なのに対し、遺贈の場合の税率は2%であり、遺贈の場合の登録免許税は高くなります。登録免許税は現金一括納付が原則ですので、不動産を遺贈するときは、納税資金を準備できるのかという視点からも受遺者に利点があるのかを検討する必要があります。
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不動産取得税
相続で不動産を取得しても不動産取得税は課税されませんが、相続人以外が遺贈で取得した場合は課税されます。
ただし、相続人以外の第三者であっても、包括遺贈(すべての遺産・負債の遺贈を受ける場合)により不動産を取得するときは、不動産取得税は非課税となります。
不動産取得税:固定資産税評価額×税率3%(2024年3月31日までの軽減税率)
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受遺者は相続税の基礎控除に影響しない
相続税には基礎控除があり、法定相続人の人数が多いほど控除額も大きくなります。
他方、受遺者は人数に含めませんので、受遺者が何人いても、基礎控除には影響しません。
相続税の基礎控除:3000万円+(600万円×法定相続人の数)
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遺贈には相続税が2割加算される
遺贈で財産を承継した場合でも、相続税の計算方法は通常の相続と同じであり、遺産総額が相続税の基礎控除額を上回ったときは、相続税が課税されます。そして、相続や遺贈により遺産を受け取る人が一親等の血族及び配偶者以外の者の場合には、相続税額は2割加算されます。相続人以外が遺贈を受ける場合は、これに該当することになるため、遺贈する金額や財産の種類を考慮しないと、受遺者の税負担が大きくなる可能性があります。
民法や税法には、相続人のための優遇措置がありますが、法定相続人ではない受遺者への配慮はほとんどありません。受遺者は、遺贈により想定外の財産を取得するため、デメリットも受け入れなければなりませんが、遺贈者は、そのような受遺者のデメリットも考慮して、財産の承継方法を検討する必要があります。