家族信託の活用方法2(株式の生前贈与に活用)
家族信託は、組み合わせ次第でさまざまな活用方法があります。皆様の家族にとって最適な、または課題に合った対策ができます。ここでは信託の具体的な活用方法について解説します。
【株式の生前贈与に活用】
<株式の生前贈与が節税になりうるケース>
贈与税は、相続税負担の回避を防止する補完税としての役割を担っていることから、一般に、相続税より税負担が大きいと考えられています。しかし、場合によっては、将来の相続発生時に想定される相続税より、生前贈与した際に想定される贈与税の方が、負担が軽くなることがあります。
たとえば、相続税は、相続が発生した時点での遺産の総額に対して課税されるのに対し、贈与税は、各暦年の贈与額を基準に課税されるので、贈与時期を分散すれば、相続税よりも税負担を引き下げることが可能です。また、贈与税については、毎年、110万円までの非課税枠があるので、暦年贈与を重ねることで相続税対策を行うことはよくあります。
また、これから新規事業を展開していく予定があるなど、将来成長することが見込まれる企業の場合、その成長が株価に反映される前の株価で株式を贈与してしまった方が、将来成長の成果が反映された株価で相続税を支払うよりも、税負担が軽くなることがあります。とりわけ、中小企業は、現経営者が有する自社株式を、株価評価がまだ高くないうちの早い段階から後継者に生前贈与しておくことで、将来の相続税対策をしておく必要が生じることがあります。
<株式の贈与+信託>
しかし、株式を後継者に生前贈与することは、経営権を後継者に委譲することも意味しますので、後継者の経営者としての経験がまだ浅く、現経営者も会社経営を退く意向がない場合は、逆に生前贈与してしまうことで、会社の意思決定に現経営者の意向を反映できなくなり、その結果、会社自体が立ち行かなくなるという事態に陥ることにもなりかねません。
このような場合には、現経営者の有する自社株式について、まずは現経営者から後継者に贈与してしまい、その後、後継者が贈与を受けた株式を現経営者に信託する、という方法が考えられます。この場合、現経営者から後継者に株式が贈与された時点で、後継者には贈与税が課税されます。
次に、後継者から現経営者に株式が信託されることになりますが、株式から利益を受ける受益者に後継者を指定することで、贈与税などの課税はありません。信託が終了する時点でも、委託者である後継者に株式が戻るだけで、贈与や相続があった扱いにはなりませんので、贈与税や相続税は課税されません。その一方で、受託者となる現経営者は、株主権を適切に行使し、後継者に代わって会社を運営していくことが可能となるのです。
ここで注意しなければならないのは、この信託の目的は、株式の移転に伴う税負担の軽減ではない、ということです。これは、現経営者から後継者に対して株式を生前贈与する目的ではありますが、信託の目的自体は、現経営者から後継者に対して贈与された株式について、受益者である後継者のために適切に管理し、会社運営することで、その経済的利益を発生させることにあります。信託の目的は、専ら受託者の利益を図る目的であってはなりませんので、信託を活用する際には、受託者の利益ではなく受益者の利益を考えてスキームを組成するよう注意する必要があります。