Columnコラム

遺言による株式の承継と遺留分について

親族経営の企業の経営者の皆様にとって、事業承継を実施する前に様々な対策を講じることが必要です。特に株式の相続についてなどは、何も対策せずにオーナー経営者が亡くなってしまうと、株式が遺産分割の対象となり、経営に支障をきたすようなケースもままあります。そこで、今回は、株式の相続についての問題点と、遺言によるリスク軽減の方法について紹介します。

株式の相続の問題点

例えば、次のようなケースです。

  • 被相続人 親族経営の会社のオーナー社長。自社株式を100%保有した状態で亡くなった。
  • 相続人 オーナー社長の長男(後継者)、長女、及び次女の3人。
  • 遺言  無し。

この場合、当該株式は、遺産分割が成立するまで、相続人の「準共有」という状態になります。具体的にいうと、すべての株式を、3人の子供である長男、長女、および次女が、それぞれ3分の1の法定相続分割合で保有する状態になります。そして、その準共有状態の株式の権利行使については、準共有者の持分割合の過半数による決定で権利行使の代表者を指定して会社に通知をしなければなりません。

つまり、上記の例の場合、相続人が3人であるので、誰も単独では過半数に及びません。意見が調整できなければ、経営に関する意思決定ができなくなる場合があるのです。

遺言だけあれば十分というわけでもない・・・遺留分の問題

事業承継の遅れにより、企業の意思決定ができなくなると、企業の経営自体の問題となります。そのような不測の事態に対し、親族経営の会社の株式については、後継者に株式が集中するように、あらかじめ対策をとっておく必要があります。上記の例でいえば、3人の子供たちが準共有になるのではなく、後継者である長男が株式を持つようにしておく、などです。その方法として、もっともわかりやすいのが、遺言により株式を承継する相続人を指定することです。

とは言え、民法には、遺留分という制度があり、各相続人には、遺産について、法定相続分の2分の1に相当する金額を取得する権利が最低限保証されています。そのため、遺言や生前贈与によって遺産を多く得た相続人は、請求を受けた場合、当該遺留分を侵害した金額を支払わなければなりません。株式が絡む場合、会社の経営が良好で株式の価値が高ければ高いほど、遺留分を侵害する可能性が高くなります。

不動産や高級美術品などオーナー社長の個人財産を事業に提供していたような場合、それらも含めて後継者に相続させたようなときには、なおさらその可能性は高くなります。株式(さらには事業に必要な財産)を全て後継者に相続させるような遺言を作成するときには、将来の紛争リスク、具体的には多額の金銭を他の相続人に支払わなければならないリスクが残ってしまいます。引き継がせる財産に金融資産が乏しいと、その支払ができず、解決ができないという事態も起こりえます。

遺留分対策の方法

これらのことから、遺言を作成する場合には、遺留分の問題が生じないように、引き継がせる財産の配分等を計算し、バランスを取ることが重要になります。 また、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)という法律で、中小企業の事業承継が総合的な支援が記されています。具体的には、現経営者から後継者に対して贈与等された自社株式について、推定相続人全員の合意その他の要件を満たすことで、当該株式について、①遺留分の算定基礎財産から除外する(除外合意)、②遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時点の時価に固定する(固定合意)をするという、遺留分に関する特例が定められています。

会社株式が絡む相続については、こうした観点を踏まえながら、遺言の内容やその他の取りうる手段があるかどうかといったことをよく検討して対策をとる必要があります。

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