お問い合わせ アクセス 資料ダウンロード

コラム

すでに遺産分割が終わった後に死後認知された場合、遺産分割はやり直しになる?弁護士が解説

「遺産分割が終わってから、知らなかった子の存在が判明し、認知の訴えを起こされた」「父の死後に認知の訴えを起こしたが、遺産分割はすでに済んでいる」。こうした場面で多くの相談者がまず気にするのは、遺産分割をやり直さなければならないのかという点です。

結論からいえば、既存の遺産分割はやり直しになりません。民法は、遺産分割の効力を維持しつつ、後から認知された子の権利を金銭で実現するための仕組み――民法910条の価額支払請求――を用意しています。

この記事では、「やり直しになるか?」という疑問に正面から答えるとともに、認知された子の立場と相続人の立場のそれぞれで、何ができるか・何に備えるべきかを実務的に整理します。

この記事のポイント

  • 遺産分割が成立した後で死後認知が確定しても、既存の遺産分割は無効になりません。認知された子は遺産そのものではなく、相続分に相当する金額を金銭で請求します(民法910条)。
  • 認知された子の側は価額支払請求の金額算定と相手方の特定が、相続人の側はすでに処分済みの財産の扱いと支払原資の確保が、それぞれ実務上の主要論点になります。
  • 認知の訴えが係属している段階で遺産分割を進めても、それだけで分割が無効になるわけではありません。ただし価額支払請求への備えが不可欠であり、家庭裁判所が遺産分割禁止の審判をしたり手続を中止したりすることもあります。

もくじ

この記事でわかること

  • 遺産分割後の死後認知で「やり直しになるか?」の結論と理由
  • 認知された子の側からみた選択肢(価額支払請求・遺留分侵害額請求)
  • 相続人の側からみた備え方(請求額の検証・支払原資の確保)
  • 不動産を売却済み、長期経過、相続債務、特別受益などの典型ケース
  • 認知訴訟係属中に遺産分割を進める場合の注意点
  • 相続税への影響と更正の請求(4か月以内)
POINT遺産分割後に死後認知が問題になる場面では、認知された子の側でも、相続人の側でも、早めの法的整理が結果に大きく影響します。お困りの方はお早めに弁護士へご相談ください。

死後認知の制度全体、認知の訴えの手続き、認知された子の相続分の計算、民法910条の価額支払請求の詳細については、死後認知とは?認知後の相続権・遺産分割・価額支払請求を弁護士が解説死後認知の訴えとは?要件・期限・手続きの流れを弁護士が解説死後認知された子の相続分はどうなる?法定相続分と遺産分割への影響を弁護士が解説民法910条の価額支払請求とは?遺産分割後に認知された子の権利を弁護士が解説であわせて解説しています。

>>弁護士費用はこちら

遺産分割後に死後認知が認められた場合、分割はやり直しになるか

結論――既存の遺産分割は無効にならない

遺産分割の協議や調停・審判が成立した時点で、認知された子がまだ法律上の相続人ではなかった場合、当時の共同相続人だけで成立した分割は有効であり、後から認知が確定したからといって無効になるわけではありません

認知された子は、遺産そのもの(不動産や預貯金)の引渡しを求めることはできず、相続分に相当する金額を金銭で受け取るかたちで精算されます。これが民法910条の価額支払請求です。

参考:民法910条

なぜやり直しにならないのか(法的安定性の要請)

遺産分割が成立した時点では、不動産の登記が移転されたり預貯金が払い戻されたり、さらに第三者への売却や消費が進んでいることが少なくありません。これらをすべて巻き戻すことは、取引の安全を害し、紛争を著しく複雑化させます。

民法910条は、こうした不都合を避けるため、既存の遺産分割の効力をそのまま維持しつつ、後から認知された子の相続権を金銭で実現する道を選びました。法的安定性と認知された子の保護の調整を、金銭精算という方法で図ったのが910条の特徴です。

民法910条の価額支払請求で調整される

認知された子は、本来取得できたはずの相続分に相当する金額を、他の共同相続人に対して請求できます。請求の手続きや計算方法の詳細は、民法910条の価額支払請求とは?遺産分割後に認知された子の権利を弁護士が解説で詳しく解説しています。

「遺産分割をやり直すのではなく、金銭で精算する」――これが、遺産分割後の死後認知における基本的な処理です。

認知された子の立場――何ができるか

遺産そのものを求めることはできない

すでに遺産分割が成立し、不動産が他の相続人に登記されたり、預貯金が払い戻されたりした後では、認知された子は遺産そのものの引渡しを請求することはできません。

たとえば父の不動産を嫡出子の一人が単独取得して登記しているとしても、認知された子はその不動産の共有持分を主張したり、引渡しを求めたりすることはできません。請求できるのは、相続分に相当する金額の金銭のみです。

価額支払請求で金銭を請求する

代わりに認知された子が行使できるのが、民法910条の価額支払請求です。請求権の内容は、本来取得できたはずの相続分に相当する金額の金銭です。

請求の相手方は誰か

請求の相手方は、認知によって相続分が減少することになった他の共同相続人です。配偶者と子が共同相続人であるケースでは、認知された子が加わっても配偶者の法定相続分(2分の1)は変動しないため、配偶者は通常、価額支払請求の相手方にはなりません。

この場合、請求は、認知された子の取り分を実質的に「先取り」した子たち(嫡出子や他の非嫡出子)に対して向けられます。相手方が複数いる場合の債務は連帯債務ではなく分割債務であり、各相続人はそれぞれの取得分に応じた負担分のみを支払う義務を負います。

ただし、相続人が配偶者のみであるとして相続処理が進んでいたところ、後から死後認知された子が現れた場合には、配偶者の相続分自体が変動します。このようなケースでは、配偶者を相手方とする価額支払請求の可否・範囲を個別に検討する必要があります。

請求額はどのように計算されるか

価額支払請求の金額は、判例で確立した次のルールに従って算定します。

  • 基礎財産は遺産分割の対象となった積極財産のみで、相続債務は控除しない(最判令和元年8月27日)
  • 評価基準時は「価額の支払を請求した時」の時価(最判平成28年2月26日)
  • 相続分は、特別受益・寄与分を反映した具体的相続分を基準にする

不動産価額が分割後に上昇していれば請求できる金額も増え、下落していれば減ります。請求のタイミングが結果に直接影響する点に注意が必要です。

遺言がある場合の遺留分侵害額請求

父が遺言を残していて、認知された子に何も渡らない内容になっている場合は、価額支払請求とは別に、遺留分侵害額請求権の行使を検討します。遺留分の割合は法定相続分の2分の1で、認知された子は嫡出子と同じ遺留分権を持ちます。

価額支払請求と遺留分侵害額請求は趣旨も相手方も異なる別個の権利ですが、両方を同時に検討する場面は実務上少なくありません。

相続人側の立場――何に備えるべきか

価額支払請求を受ける可能性

父に認知されていない子がいる可能性があるケース、あるいは認知の訴えが係属しているケースでは、相続人の側も価額支払請求を受ける可能性を前提に備えることが重要です。

認知判決の確定によって、金銭の支払義務を負うことになる可能性は否定できません。請求を受けてから初めて備えるのでは遅く、見通しの段階で資料の整理を始めておくことが望ましいでしょう。

請求額の算定根拠を把握する

価額支払請求を受けた場合、まず請求額の算定根拠を慎重に検証することが必要です。

  • 基礎財産の範囲(遺産分割の対象とされた積極財産は何だったか)
  • 評価額の根拠(請求時点の不動産時価をどう評価するか)
  • 主張されている相続分の正確性(特別受益・寄与分の処理)

これらを当事者として整理し、自分の主張すべき事情があれば早めに準備しておきます。特別受益や寄与分は、当事者が主張・立証しなければ反映されないため、主張すべき事情の整理は早期に行うことが重要です。

すでに不動産を売却・処分している場合

不動産がすでに売却されている、預貯金が消費されているといった場合でも、それだけで価額支払請求の問題がなくなるわけではありません。支払いの原資をどう確保するか、分割払いを交渉できるか、といった現実的な検討が必要になります。

とくに、売却価額より請求時点の時価が高くなっている場合には、売却時に手元に残った金額と、請求時点の評価を前提にした請求額との間に差が生じることがあります。請求のタイミングと評価基準時の関係を踏まえた対応が求められます。

複数の相続人で支払義務を分担する(分割債務)

相手方が複数いる場合、価額支払請求の債務は分割債務です。各相続人は、自分の取得分に応じた負担分のみを独立に負います。

一人の相続人が支払不能になっても、他の相続人が肩代わりする義務はありません。逆に、認知された子の側からみれば、相手方それぞれに対して、その負担分を個別に請求する必要があります。

>>弁護士費用はこちら

遺産分割後の死後認知で問題になりやすいケース

ケース1:不動産を売却済みで現金化している

遺産分割で不動産を取得した相続人が、その後に不動産を売却して現金化しているケースです。請求時点での不動産時価が売却価額より上がっていれば、手元の現金より多い金額を支払う必要が生じる可能性があります。

逆に時価が下がっていれば、請求額は売却価額より少なくなります。請求のタイミングと評価方法の双方が争点になりやすい類型です。

ケース2:遺産分割から長期間が経過し不動産価額が変動している

死後認知の訴えに時間を要するため、遺産分割成立から認知確定まで数年が経過することは珍しくありません。その間に不動産価額が大きく変動していると、当時の評価と請求時点の評価に大きな差が生じます。

最判平成28年2月26日のルール(評価基準時は請求した時の時価)が直接に影響する典型的なケースです。

ケース3:相続債務があり分割時に考慮されていた

遺産分割で相続債務を考慮し、債務を承継する見返りに多めの財産を取得した相続人がいるケースです。

しかし、最判令和元年8月27日によれば、価額支払請求の基礎財産は積極財産のみで、相続債務は控除しません。そのため、債務の承継を理由に多めの財産を取得していた相続人にとっては、債務分が反映されないかたちで請求額が算定されることになり、請求された側にとっては厳しい結論です。訴訟でも争点になりやすい部分です。

ケース4:相続人の一部が特別受益を受けていた

他の相続人が生前贈与や遺贈を受けていた場合、これは特別受益として持戻しの対象になります。価額支払請求の算定でも、具体的相続分を基準とするため、特別受益を反映した計算になります。

認知された子の請求額が、法定相続分どおりの単純計算より増えることになり、その立証が訴訟の中で重要になります。

認知訴訟係属中に遺産分割を進める場合の注意点

遺産分割を成立させても無効にはならない

死後認知の訴えが係属している段階でも、その判決が確定するまでは、訴えを提起している子は法律上の相続人ではありません。したがって、その者を除外して遺産分割協議を成立させても、それだけで分割が無効になるわけではありません

認知判決が確定した場合は、認知された子は民法910条の価額支払請求によって金銭の精算を求めることになります。

参考:民法910条

ただし価額支払請求への備えが必要

無効にはならないとはいえ、認知判決が確定すれば価額支払請求を受ける可能性があります。そのため、認知訴訟係属中に遺産分割を急ぐ場合は、認知が認められた場合の価額支払請求を想定し、現金や換価しやすい資産を一定程度確保しておくなどの備えが必要です。

不動産を早期に売却して長期間が経過すると、価額の変動を再計算するのが困難になることもあります。認知訴訟の見通しを踏まえた慎重な判断が求められます。

遺産分割禁止の審判が出る可能性

家庭裁判所は、申立てに応じて遺産分割を禁止する審判をすることができます(民法907条3項)。認知の訴えが係属している場面では、認知された子の地位を保護するためにこの審判が活用されることがあります。

また、遺産分割調停・審判の手続を中止する取扱いがされることもあります。もっとも、これらは裁判所の裁量による措置であり、認知訴訟が係属していれば自動的に手続が止まるわけではありません。

相続税への影響

法定相続人の数が変わる

死後認知が確定すると、被相続人の法定相続人の数が増えます。これは相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)や生命保険金等の非課税枠(500万円×法定相続人の数)に直接影響します。

また、認知された子は被相続人の実子として扱われるため、相続税の2割加算の対象にはなりません。

更正の請求は認知確定を知った日の翌日から4か月以内

すでに相続税の申告を済ませている場合、認知の確定によって相続税の計算が変わることがあります。この場合、認知された子が現れたことを知った日の翌日から4か月以内に、税務署に対して更正の請求をすることができます(相続税法32条1項)。

期間が短いため、認知判決の確定後はすみやかに税理士と連携して対応することが重要です。

参考:相続税法32条

税理士との連携が重要

価額支払請求の金額が大きい場合や、不動産の評価・特別受益の処理が複雑な場合、相続税の計算も連動して大きく動きます。弁護士による法的整理と並行して、税理士との連携によって税務処理を進めることが、結果として相続人全員の負担を軽くすることにつながります。

POINT遺産分割後の死後認知では、「やり直しにならない=放置していい」ではありません。認知された子の側は時効と評価変動を、相続人の側は支払原資と相続税の更正請求期間(4か月)を、それぞれ意識して動く必要があります。

>>弁護士費用はこちら

よくある質問

遺産分割後に死後認知されたら、遺産分割は無効になりますか?

無効にはなりません。既存の遺産分割の効力は維持され、認知された子は民法910条の価額支払請求によって金銭での精算を求めることになります。これが、法的安定性と認知された子の保護を調整するために民法が選んだ仕組みです。

認知された子は遺産のうち不動産を直接もらえますか?

直接もらえません。遺産分割成立後の認知では、認知された子は不動産の共有持分や引渡しを請求することはできず、相続分に相当する金額を金銭で請求することになります。

すでに不動産を売ってしまった場合はどうなりますか?

不動産がすでに売却されていても、それだけで価額支払請求の問題がなくなるわけではありません。価額算定では請求時点の不動産時価が問題になるため、売却価額と請求時点の評価額に差がある場合、その差をどう見るかが争点になり得ます。手元に残った金額だけでは対応しきれない可能性もあるため、注意が必要です。

価額支払請求を受けたら、いくら払うことになりますか?

基礎財産(積極財産のみ)の総額に、認知された子の具体的相続分の割合を掛けた金額です。評価基準時は請求した時点の時価であり、不動産価格の変動が反映されます。複数の相手方がいる場合は、それぞれの取得分に応じた負担分のみを支払う分割債務です。

遺産分割時に相続債務があった場合、債務分は差し引かれますか?

差し引かれません(最判令和元年8月27日)。基礎財産は遺産分割の対象となった積極財産のみで、相続債務は控除しないというのが最高裁の判断です。債務を承継する見返りに多めの財産を取得していた相続人にとっては、厳しい結論になります。

配偶者も支払義務を負いますか?

配偶者と子が共同相続人であるケースでは、配偶者の法定相続分(2分の1)は、認知された子が共同相続人に加わっても変動しないため、配偶者は通常、価額支払請求の相手方にはなりません。請求は、認知によって相続分が減少した子に対して向けられます。

ただし、相続人が配偶者のみであるとして相続処理が進んでいた場合は、認知された子が現れることで配偶者の相続分自体が変動します。この場合は、配偶者を相手方とする価額支払請求の可否・範囲を個別に検討する必要があります。

認知の訴え中に遺産分割を進めても問題ありませんか?

法的には、認知判決確定前は訴えを提起している子は相続人ではないため、その者を除外した遺産分割が直ちに無効になるわけではありません。ただし、認知判決が確定すれば価額支払請求を受ける可能性があるため、その備えなく遺産分割を急ぐと、後の精算で大きな負担を抱える可能性があります。また、家庭裁判所が遺産分割禁止の審判をしたり、調停・審判を中止したりすることもあります。

関連記事

遺産分割後の死後認知でお困りの方へ

遺産分割が終わった後の死後認知では、認知された子の側にも、相続人の側にも、それぞれ実務上の対応が必要です。価額支払請求の金額算定、不動産評価、特別受益・寄与分の主張、相続税の更正請求など、論点は多岐にわたります。早めに弁護士へご相談いただければ、見通しを立てて落ち着いて進めることができます。

まとめ

遺産分割が終わった後で死後認知が確定しても、既存の遺産分割は無効にはなりません。民法910条の価額支払請求によって、認知された子は金銭による精算を受けることになります。

認知された子の側は、価額支払請求の金額算定と相手方の特定が主要論点になります。基礎財産は積極財産のみ、評価基準時は請求時の時価、相続分は具体的相続分という判例ルールを踏まえて、適切なタイミングで請求を行うことが重要です。遺言がある場合は遺留分侵害額請求も並行して検討します。

相続人の側は、価額支払請求を受ける可能性を前提に、すでに処分した財産の扱いや支払原資の確保を含めて備える必要があります。不動産売却後の請求や、相続債務を考慮した分割がされていたケースでは、判例ルールが請求された側にとって厳しく作用する場面もあります。

認知訴訟係属中に遺産分割を進めること自体は禁止されていませんが、認知判決確定後に価額支払請求を受ける可能性があるため、家庭裁判所の判断や手続中止の可能性も含めて、慎重に検討する必要があります。

相続税についても、法定相続人の数の変動を踏まえた更正の請求が、認知確定を知った日の翌日から4か月以内という短い期間で必要になります。弁護士と税理士の連携が、認知された子の側でも相続人の側でも、結果を大きく左右します。

「やり直しになるか?」という入口の不安に答える先には、認知された子の側でも相続人の側でも、判例と実務に沿った具体的な対応が必要になります。お早めに弁護士へご相談ください。

>>弁護士費用はこちら

関連記事

RETURN TOP

― お気軽にご相談ください ―

03-5224-3801 電話受付 平日 9:00〜20:00 お問い合わせフォーム

初回相談60分無料

営業時間:平日9:00~20:00

03-5224-3801