遺産分割が終わった後に死後認知の判決が確定した場合、認知された子は遺産そのもの(不動産や預貯金)の引渡しを求めることができません。代わりに、本来取得できたはずの相続分に相当する金額を、他の相続人に金銭で支払うよう請求することになります。これが民法910条の価額支払請求です。
価額支払請求は、遺産分割の法的安定性を維持しつつ、後から認知された子の相続権を金銭で実現するために設けられた制度です。基礎財産の範囲、評価の基準時、相手方の特定、債務の扱いについては、最高裁判例によって重要なルールが確立しています。
この記事では、民法910条の価額支払請求について、制度の趣旨から具体的な計算、判例の整理、手続きの流れまで、弁護士の視点から実務的に解説します。
この記事のポイント
- 民法910条は、遺産分割後に死後認知された子に、相続分に相当する価額(金銭)の支払いを請求する権利を認める規定です。遺産そのものの引渡しは請求できません。
- 基礎財産は遺産分割の対象となった積極財産のみで、相続債務は控除しません(最判令和元年8月27日)。評価基準時は「価額の支払を請求した時」の時価です(最判平成28年2月26日)。
- 請求の相手方は、認知によって相続分が減少した他の共同相続人です。配偶者と子が共同相続人である典型例では、配偶者の法定相続分は変動しないため相手方になりません。国庫・特別縁故者は共同相続人ではないため相手方になりません。複数の相手方がいる場合の債務は連帯債務ではなく分割債務です。
この記事でわかること
- 民法910条の制度趣旨と「価額のみによる支払」の意味
- 価額支払請求ができる場面の整理
- 請求の相手方の範囲(配偶者・国庫・特別縁故者との関係)
- 価額の算定方法(積極財産のみ・債務非控除・具体的相続分)
- 評価の基準時と価格変動への対応
- 具体例による計算
- 訴訟の管轄(地方裁判所)と遅延損害金
- 期間制限と消滅時効
- 請求を受けた相続人側の対応
死後認知の制度全体や、認知の訴えの手続き、認知された子の相続分の基本については、死後認知とは?認知後の相続権・遺産分割・価額支払請求を弁護士が解説、死後認知の訴えとは?要件・期限・手続きの流れを弁護士が解説、死後認知された子の相続分はどうなる?法定相続分と遺産分割への影響を弁護士が解説であわせて解説しています。遺産分割後に死後認知された場合に「分割のやり直しになるか」という全体像は、すでに遺産分割が終わった後に死後認知された場合、遺産分割はやり直しになる?弁護士が解説で整理しています。
民法910条とは
条文の趣旨――法的安定性と認知された子の保護の調整
民法910条は、相続開始後に認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合に、すでに他の共同相続人による遺産分割その他の処分が行われていたときは、その者は価額のみによる支払の請求権を有すると定めています。
この規定の趣旨は、すでに成立した遺産分割の効力を維持して取引の安全と法的安定性を確保しつつ、後から認知された子の相続権を金銭による精算によって実現する点にあります。遺産分割が成立した時点では認知された子は法律上の相続人ではなかったため、その協議は有効に成立しており、後から認知された子が現れたからといって既存の分割をやり直すという制度設計は採られていません。
参考:民法910条
「価額のみによる支払」の意味
民法910条のもとで認知された子が請求できるのは、あくまで金銭であり、遺産そのもの(不動産・預貯金など)の引渡しや共有持分の主張ではありません。
たとえば遺産が不動産しかなく、嫡出子の一人がすでに単独所有として登記している場合でも、認知された子はその不動産の共有持分を主張することはできず、相続分に相当する評価額を金銭で請求することになります。
遺産分割のやり直しとの違い
本来、遺産分割協議に共同相続人の一部が参加していなかった場合、その協議は無効となり分割をやり直すのが原則です。しかし、民法910条が適用されるのは、遺産分割の時点では認知された子がまだ法律上の相続人ではなかったケースです。当時の共同相続人だけで成立した協議は有効であり、後から相続人になった者の権利は金銭による精算で調整される、というのが910条の発想です。
この点が、認知の判決確定前から相続人として参加すべきだった子を協議から除外したケース(協議全体が無効になる)との重要な違いです。
価額支払請求ができるケース
遺産分割が完了している場合
最も典型的なのは、遺産分割協議や調停・審判によって各相続人に遺産が分配された後に死後認知が確定したケースです。すでに不動産の登記移転や預貯金の払戻しが終わっていることが多く、認知された子は民法910条によって金銭での精算を求めることになります。
遺産の一部が処分されている場合
民法910条は「分割その他の処分」と規定しており、遺産分割そのものでなくとも、相続人による遺産の処分が行われている場合に適用されます。
たとえば、不動産が共同相続人によって第三者に売却されている、預貯金が払い戻されて使われている、といった場面でも、910条の価額支払請求の枠組みで処理することになります。
遺産分割前でも910条が適用される場面はあるか
遺産分割が未了であれば、認知された子は本来、価額支払請求ではなく遺産分割協議への参加を求めるのが筋です。もっとも、相続人の一部が遺産を処分してしまっており現実に分割対象にできる遺産が残っていないような場合には、910条の枠組みによる金銭精算を選択せざるを得ない場面も生じ得ます。
請求の相手方
相続分が減少する相続人に限られる
価額支払請求の相手方は、認知によって自分の相続分が減少することになった他の共同相続人です。認知された子の相続分を実質的に「先取りした」立場の相続人が、その分を金銭で精算する義務を負う、という整理です。
配偶者が相手方になるかは相続人構成による
配偶者と子が共同相続人であるケースでは、配偶者は価額支払請求の相手方になりません。配偶者の法定相続分(子と共同相続する場合は2分の1)は、認知された子が共同相続人に加わっても変動しないためです。この場合、認知された子の相続分を実質的に取得しているのは、相続分が減少する他の子です。
もっとも、相続人が配偶者のみであるとして相続処理が進んでいたところ、後から死後認知された子が現れた場合には、配偶者の相続分は全部から2分の1に変動します。このようなケースでは、「配偶者だから常に相手方にならない」とは整理できず、配偶者を相手方とする価額支払請求の可否・範囲を個別に検討する必要があります。
国庫・特別縁故者は相手方にならない(実務上は稀なケース)
なお、相続人が不存在として遺産が国庫に帰属したケース(民法959条)や、特別縁故者に分与されたケース(民法958条の2)の後で死後認知が確定するという場面も、論理的には想定できます。もっとも、相続人不存在の確定や特別縁故者への分与には相応の手続期間がかかり、その間に死後認知の訴えが提起・確定しないまま処理が完了するというケースは実務上きわめて稀です。
仮にこのような稀な場面が現実化したとしても、国庫や特別縁故者は910条の価額支払請求の相手方にはなりません。910条は共同相続人間の調整を念頭に置いた規定であり、共同相続人ではない国庫や特別縁故者には及ばないからです。この場合の救済の可否や方法は、個別の事案ごとに別途検討する必要があります。
相手方が複数いる場合は分割債務
価額支払請求の相手方が複数いる場合、その債務は連帯債務ではなく分割債務です。各相続人は、それぞれの取得分に応じた金額の支払義務を独立に負います。
たとえば、嫡出子3人が均等に遺産を取得していた場合、認知された子が受けるべき金銭はその3人に分割して請求することになり、各嫡出子はそれぞれ自分の負担分のみについて支払義務を負います。一人が支払不能になっても、他の相続人が肩代わりする義務はありません。
価額の算定方法
基礎財産は積極財産のみ(最判令和元年8月27日)
価額支払請求の基礎となる遺産の範囲について、最高裁令和元年8月27日判決は、遺産分割の対象となった積極財産のみを基礎とすると判示しました。
不動産・預貯金・株式といったプラスの財産だけを基礎財産として価額を算定し、消極財産(債務)は基礎財産に組み込みません。
債務は控除しない
同判決は、価額の算定にあたって相続債務は控除しないという結論も明らかにしました。相続債務は法律上当然に分割されて各相続人が法定相続分に従って承継するため、910条の枠組みで重ねて調整する必要がない、というのが判決の論理です。
したがって、価額算定の出発点は「相続開始時の積極財産の総額」となり、債務を引いた純財産ではありません。請求する側にとっては有利、請求される側にとっては厳しい結論ともいえます。
特別受益・寄与分を反映した具体的相続分で算定
価額の算定における「相続分」は、単純な法定相続分ではなく、特別受益の持戻し(民法903条)や寄与分(民法904条の2)による調整を反映した具体的相続分を基準にすると解されています。
他の相続人が生前に父親から多額の贈与を受けていれば、その分は持戻して計算され、認知された子が請求できる金額は法定相続分どおりの計算よりも増えることになります。逆に、認知された子自身が生前贈与を受けていた場合は、その分が持戻しの対象になります。
実際の訴訟では、これらの特別受益・寄与分の存否や金額が争点になることが少なくありません。
評価基準時は「請求した時」の時価(最判平成28年2月26日)
不動産の価格は時間とともに変動します。価額支払請求の対象財産をいつの時点の時価で評価するかが、実務的にも理論的にも重要な論点です。
最高裁平成28年2月26日判決は、価額支払請求における財産評価の基準時は、「価額の支払を請求した時」の時価であると判示しました。相続開始時でも遺産分割成立時でもなく、認知された子が請求権を行使した時点の評価額を基準に算定します。
そのため、不動産価格が分割後に上昇していれば請求できる金額も増え、下落していれば減ることになります。
具体例で見る価額の計算
ケース1:不動産と預貯金が遺産の場合
父親の遺産が不動産(相続時評価4,000万円)と預貯金2,000万円の合計6,000万円。妻と嫡出子A・Bで遺産分割を行い、妻が不動産、A・Bが預貯金を1,000万円ずつ取得した後、死後認知が確定して認知された子Xが現れたケースを考えます。
価額支払請求の時点で不動産の時価が5,000万円に上昇していたとすると、基礎財産は5,000万円+2,000万円=7,000万円です。
認知された子Xの本来の相続分は、配偶者2分の1、子全体で2分の1、子は3人で按分のため6分の1になります。基礎財産7,000万円の6分の1で、Xが請求できる総額は約1,167万円です。
このケースでは、配偶者と子が共同相続人であり、認知された子Xが加わっても配偶者の法定相続分は変動しないため、配偶者は相手方になりません。嫡出子A・Bが分割債務として負担します。A・Bの本来の相続分はいずれも4分の1で同額であり、Xの取り分を均等に「先取り」した形なので、A・Bそれぞれの支払義務は1,167万円÷2=約583万円になります。
ケース2:遺産分割後に不動産価格が変動した場合
ケース1で、請求時点の不動産時価が3,000万円に下落していた場合は、基礎財産が3,000万円+2,000万円=5,000万円となります。Xの請求できる総額は5,000万円÷6=約833万円、A・Bそれぞれの負担は約417万円となります。
評価基準時が請求時の時価であるため、不動産価格の変動はそのままX・A・Bの取り分にも反映されます。請求のタイミングが結果に大きく影響する点に注意が必要です。
ケース3:相手方が複数いる場合の負担割合
相手方が複数いる場合、各相手方はそれぞれの取得分に応じた負担を分割債務として負います。ケース1のようにA・Bが均等に遺産を取得していた場合は、Xに対する支払いもAとBで均等に分担します。
もしA・Bの取得分に偏りがあった場合(例:Aが多めに取得していた場合)は、それぞれの取得分に応じてXに対する負担割合も変わります。一方の支払いが滞っても、他方が連帯して肩代わりする義務はありません。
価額支払請求の手続き
交渉(任意の支払い)
実務では、いきなり訴訟を提起するのではなく、まず内容証明郵便や弁護士による書面で価額支払請求を行い、任意の支払いを交渉することが一般的です。請求金額の算定や評価方法に争いがあれば、相互に資料を提示しながら協議を進めます。
訴訟は地方裁判所に提起する
任意の支払いが得られない場合は、訴訟を提起します。価額支払請求の訴訟は、家庭裁判所ではなく地方裁判所の管轄です。
死後認知の訴え自体は人事訴訟として家庭裁判所が専属管轄しますが、認知が確定した後の価額支払請求は金銭請求であり、通常の民事訴訟手続によります。実務上は、地方裁判所への訴訟として検討することになります。
家庭裁判所の調停・審判ではない
価額支払請求は遺産分割そのものではないため、家庭裁判所の遺産分割調停・審判の対象にはなりません。当事者間で交渉が決裂した場合は、家庭裁判所の調停を経ずに、直接、地方裁判所の通常訴訟に進みます。
ただし、価額算定にあたっては具体的相続分の計算(特別受益・寄与分の評価)が必要になり、この点で家族関係に関する事実認定を含む複雑な争点が訴訟の中で扱われることになります。
履行遅滞と遅延損害金の発生時期
価額支払請求権がいつから履行遅滞となり、遅延損害金が発生するか、という論点もあります。
価額支払請求権は、相手方への請求(催告)によって履行期が到来する債権と解されており、内容証明郵便等で支払いを請求した時点(相手方への到達時)から遅延損害金が発生するのが基本的な扱いです。請求書を発送した後の対応次第で利息分も積み上がるため、請求は早めに行うことが望ましいでしょう。
価額支払請求の期間制限
消滅時効の問題
価額支払請求権の消滅時効については、910条自体に明文の規定がありません。一般の債権として民法166条1項の消滅時効(権利を行使することができることを知った時から5年、または権利を行使することができる時から10年)に服すると解するのが多数の理解です。
死後認知された子の場合、判決確定時に自分が相続人であることを知り、同時に910条の権利の存在を認識することが通常です。そのため、5年の起算点は認知判決確定時以降になります。
いつまでに請求すべきか
時効消滅を避けるためにも、また証拠の散逸や財産処分の進行を防ぐためにも、認知判決が確定したらできるだけ早く価額支払請求の手続きを開始することが重要です。とくに不動産が含まれる場合、相手方が処分してしまえば現状の把握も評価も難しくなります。
価額支払請求をめぐる主要判例
最判平成28年2月26日(評価基準時)
価額支払請求の対象財産の評価基準時を、「価額の支払を請求した時」であると判示した重要判例です。相続開始時でも遺産分割時でもなく、認知された子が請求権を行使した時点を基準とします。
この判決により、価額支払請求の金額は、財産価格の変動を反映して請求時点で算定されることが確立しました。請求のタイミングが結果に直接影響する点を意識する必要があります。
最判令和元年8月27日(積極財産のみ・債務非控除)
価額支払請求の基礎財産は遺産分割の対象となった積極財産のみであり、相続債務は控除しないと判示しました。
相続債務は法定相続分に従って当然に分割され、各相続人が独立に承継するため、910条の枠組みで重ねて調整する必要はないというのが判決の論理です。
これら2つの判例は、価額支払請求の算定方法を考えるうえで実務的に最も重要なルールであり、訴訟の主張・立証もこれらの判例の枠組みに沿って組み立てることになります。
価額支払請求を受けた相続人側の対応
請求額の検証
価額支払請求を受けた側は、まず請求額の算定根拠を慎重に検証することが必要です。基礎財産の範囲、評価額の根拠、相手方が主張する相続分(特別受益や寄与分の処理)について、自身の見解を整理します。
特別受益や寄与分は、当事者が主張・立証しなければ反映されないため、自分が主張すべき事情があれば早めに整理しておくことが重要です。
財産評価の争い方
不動産の評価額は、価額支払請求のなかで最も争点になりやすい部分です。固定資産税評価額、路線価、不動産業者の査定、不動産鑑定士による鑑定など、複数の評価方法があり、訴訟ではこれらの妥当性が争われます。
請求時点の時価という基準であるため、請求時点に近いタイミングでの不動産鑑定書が有力な証拠になりやすい傾向があります。請求を受けた側としても、相手方の評価に疑義があれば独自に鑑定を取ることを検討するべきです。
分割払い等の交渉
請求額が大きい場合、相手方は一括での支払いが困難なことがあります。任意交渉の段階で分割払いを提案したり、不動産の任意売却によって支払い原資を確保する方法を検討したりすることも、実務上の選択肢になります。
訴訟になった場合でも、和解の中で分割払いの合意がまとまることは少なくありません。
よくある質問
民法910条の「価額」とは何ですか?
認知された子が本来取得できたはずの相続分に相当する金銭の額のことです。価額支払請求は、遺産そのものではなく、その評価額相当の金銭を請求する権利です。
遺産をそのまま引き渡してもらうことはできますか?
できません。遺産分割が成立した後の認知では、既存の遺産分割の効力は維持されるため、認知された子が請求できるのは金銭のみです。不動産の共有持分の主張も認められません。
相続時の評価額と現在の評価額が違う場合、どちらで計算しますか?
請求した時の時価で計算します(最判平成28年2月26日)。相続開始時でも遺産分割成立時でもなく、認知された子が支払いを請求した時点の評価額が基準になります。
価額支払請求はどこの裁判所に訴えるのですか?
地方裁判所への訴訟として検討します。家庭裁判所の遺産分割調停・審判は対象になりません。死後認知の訴え自体は家庭裁判所ですが、その後の価額支払請求は通常の民事訴訟手続です。
相手方が支払わない場合はどうなりますか?
通常の民事訴訟と同じく、判決が確定すれば強制執行(給与差押え、預貯金差押え、不動産差押えなど)の対象になります。任意の支払いがない場合は、勝訴判決を得て強制執行に進みます。
相続債務がある場合、債務分は差し引かれますか?
差し引かれません(最判令和元年8月27日)。基礎財産は遺産分割の対象となった積極財産のみで、相続債務は控除しないというのが最高裁の判断です。相続債務は法定相続分に従って当然に分割されるため、910条の枠組みで重ねて調整する必要がないという理由です。
配偶者に対して価額の支払いを請求できますか?
配偶者と子が共同相続人であるケースでは、認知された子が加わっても配偶者の法定相続分(2分の1)は変動しないため、配偶者は通常、価額支払請求の相手方にはなりません。請求の相手方は、認知によって相続分が減少した嫡出子や他の非嫡出子などになります。
ただし、相続人が配偶者のみであるとして相続処理が進んでいた場合は、認知された子が現れることで配偶者の相続分自体が変動します。この場合は、配偶者を相手方とする価額支払請求の可否・範囲を個別に検討する必要があります。
相手方が複数いる場合、誰か一人にまとめて請求できますか?
できません。価額支払請求の債務は分割債務であり、各相手方は自分の取得分に応じた負担分のみを支払う義務を負います。一人の相手方に全額を請求することはできず、各相手方に対してそれぞれの負担額を請求することになります。
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価額支払請求でお困りの方へ
民法910条の価額支払請求は、判例で確立した算定ルールに従って金額が決まりますが、特別受益・寄与分・不動産評価など、争点になる論点が多くあります。請求する側、請求される側、いずれの立場であっても、早めに弁護士へご相談ください。
まとめ
民法910条の価額支払請求は、遺産分割が成立した後に死後認知が確定したケースで、認知された子に相続分に相当する金銭の支払いを認める制度です。既存の遺産分割の効力は維持され、遺産そのものの引渡しは請求できません。
基礎財産は遺産分割の対象となった積極財産のみで、相続債務は控除しません(最判令和元年8月27日)。評価基準時は「価額の支払を請求した時」の時価であり、財産価格の変動が請求金額にそのまま反映されます(最判平成28年2月26日)。
請求の相手方は、認知によって相続分が減少した他の共同相続人です。配偶者と子が共同相続人である典型例では、配偶者の法定相続分は変動しないため相手方になりません。ただし、相続人が配偶者のみであるとして相続処理が進んでいたケースでは、配偶者の相続分自体が変動するため、個別の検討が必要です。国庫・特別縁故者は910条の射程外です。相手方が複数いる場合の債務は分割債務であり、各相手方はそれぞれの取得分に応じた負担のみを負います。
手続きは、まず任意交渉から始め、合意に至らなければ地方裁判所に訴訟を提起します。家庭裁判所の調停・審判は対象になりません。遅延損害金は請求時から発生するのが基本的な扱いであり、消滅時効も問題になるため、認知判決が確定したら早期に手続きを開始することが重要です。
価額支払請求は、判例ルールが確立している領域ではありますが、特別受益・寄与分の評価や不動産評価をめぐって争点が多発しやすい類型です。請求する側でも、請求される側でも、早めに弁護士に相談し、見通しを立てたうえで進めることをおすすめします。



