死後認知の訴えで認容判決が確定すると、子は出生時にさかのぼって父親の法律上の子となり、相続人としての地位を取得します。問題は、その子の相続分が具体的にどう計算されるか、そして他の相続人(配偶者や嫡出子など)の取り分にどう影響するかです。
かつて非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1とされていましたが、平成25年の最高裁決定と同年の民法改正によって、嫡出子と非嫡出子の相続分は同じになりました。死後認知された子も、嫡出子とまったく同じ法定相続分を取得します。
この記事では、死後認知された子の法定相続分について、計算方法と具体例、遺産分割への影響、特別受益・寄与分・遺言との関係まで、弁護士の視点から実務的に解説します。
この記事のポイント
- 死後認知された子の法定相続分は、嫡出子と同じです。平成25年の最高裁決定と民法改正により、嫡出子と非嫡出子の相続分の差は廃止されました。
- 認知の効果は出生時にさかのぼるため、認知された子は最初から相続人だったものとして扱われます。
- 遺産分割前に認知が確定した場合は認知された子を含めて分割協議をやり直し、遺産分割後の場合は民法910条の価額支払請求で調整します。
この記事でわかること
- 死後認知された子が相続人になる法的根拠
- 嫡出子と非嫡出子の相続分が同じになった経緯
- 死後認知された子の法定相続分の計算方法
- 配偶者・嫡出子・代襲相続が絡む場合の具体例
- 遺産分割前と分割後で扱いがどう変わるか
- 特別受益・寄与分・遺言がある場合の調整
- 遺留分との関係
死後認知の制度全体や、認知の訴えの手続きについては、死後認知とは?認知後の相続権・遺産分割・価額支払請求を弁護士が解説と死後認知の訴えとは?要件・期限・手続きの流れを弁護士が解説でまとめて解説しています。
死後認知された子は相続人になるか
認知の効果は出生時にさかのぼる(民法784条)
民法784条は、認知の効力は子の出生時にさかのぼると定めています。死後認知の判決が確定した場合も同じで、認知された子は最初から父親の子だったものとして取り扱われます。
したがって、死後認知の判決確定時から相続人になるわけではなく、相続開始時(父親の死亡時)にすでに相続人だったものとして法律関係が整理されます。これは相続分の計算や遺産分割の処理を考えるうえで重要な前提です。
参考:民法784条
認知された子の法的地位
認知された子は、嫡出子か非嫡出子かを問わず、父親の第一順位の相続人(民法887条1項)となります。
父親に配偶者がいれば配偶者と並んで、嫡出子や他の非嫡出子がいればその子たちと並んで、共同相続人の一人として相続分を取得します。父親の親や兄弟姉妹は後順位の相続人ですから、認知された子がいる場合には相続人になりません。
参考:民法887条
嫡出子と非嫡出子の相続分は同じ
かつては非嫡出子の相続分は2分の1だった
平成25年改正前の民法900条4号ただし書は、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1と定めていました。婚姻関係にない男女から生まれた子は、嫡出子の半分しか相続できないというルールです。
この規定は、戸籍上の婚姻に基づく家族関係を保護する趣旨だと説明されていましたが、子に責任のない事情によって相続分に差を設けることへの批判は長く続いていました。
参考:民法900条
最大決平成25年9月4日――違憲判断
最高裁判所大法廷は、平成25年9月4日の決定で、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする規定は憲法14条1項(法の下の平等)に違反すると判断しました。
父母が婚姻関係になかったという、子にとってどうにもできない事情によって相続分に差を設けることは、もはや合理性を欠くというのが判断の理由です。決定は、遅くとも平成13年7月当時には違憲の状態に達していたとし、相続開始時期との関係でも一定の射程を示しました。
法改正の経緯と現行法のルール
最高裁の違憲判断を受け、平成25年12月の民法改正で非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする規定(旧900条4号ただし書前段)は削除されました。
現行法のもとでは、嫡出子か非嫡出子かを問わず、子の相続分はすべて同じです。死後認知された子も、嫡出子と完全に同じ法定相続分を取得します。
いつの相続から同じ相続分が適用されるか
改正法は、平成25年9月5日以後に開始した相続に適用されます。同日以後に父親が亡くなったケースであれば、嫡出子と非嫡出子の相続分は等しいというルールがそのまま適用されます。
平成13年7月から平成25年9月4日までに開始した相続については、最高裁決定を踏まえ、すでに確定した法律関係に影響しない範囲で、嫡出子と非嫡出子の相続分は等しいものとして扱われます。
死後認知された子の法定相続分の計算
配偶者と子がいる場合の基本(配偶者1/2、子1/2)
民法900条1号により、配偶者と子が相続人になる場合の法定相続分は、配偶者2分の1、子全体で2分の1です。
子が複数いる場合は、子全体の2分の1を子の人数で均等に按分します。死後認知された子も、ほかの子と同じ頭割りで相続分を取得します。
子が複数いる場合の按分方法
たとえば、配偶者と嫡出子2人、死後認知された子1人の合計4人が相続人の場合、子全体の取り分2分の1を3人で按分するため、子1人あたりの相続分は6分の1(1/2 ÷ 3)になります。
配偶者の相続分2分の1は子の人数によって変動しません。子の人数が増えると、減るのは子の側の取り分だけです。
配偶者がいない場合
父親に配偶者がいない場合(離婚済み、配偶者が先に亡くなっているなど)、子が遺産全体を相続します。子の人数で均等に按分しますから、嫡出子2人と死後認知された子1人がいれば、それぞれ3分の1ずつになります。
代襲相続が生じる場合
父親の死亡時にすでに嫡出子の一人が亡くなっており、その嫡出子に子(孫)がいる場合、その孫が代襲相続人になります(民法887条2項)。
代襲相続人は被代襲者(亡くなった子)の相続分をそのまま取得します。孫が複数いれば被代襲者の相続分を孫の人数で均等に按分します。死後認知された子と代襲相続人が並ぶ場合も、同じルールで計算します。
参考:民法887条
具体例で見る相続分の変動
ケース1:配偶者+嫡出子2人のところに認知された子が加わる場合
父親に配偶者、嫡出子A・Bがおり、死後認知によって新たに子Cが加わったケースです。遺産が6,000万円とします。
認知前の法定相続分
| 相続人 | 相続分 | 金額 |
|---|---|---|
| 配偶者 | 1/2 | 3,000万円 |
| 嫡出子A | 1/4 | 1,500万円 |
| 嫡出子B | 1/4 | 1,500万円 |
認知後の法定相続分
| 相続人 | 相続分 | 金額 |
|---|---|---|
| 配偶者 | 1/2 | 3,000万円 |
| 嫡出子A | 1/6 | 1,000万円 |
| 嫡出子B | 1/6 | 1,000万円 |
| 認知された子C | 1/6 | 1,000万円 |
配偶者の取り分は変わりません。子の側の取り分が3人で按分されるため、嫡出子A・Bの取り分はそれぞれ500万円ずつ減少します。
ケース2:子のみ3人のところに認知された子が加わる場合
父親に配偶者がおらず、嫡出子A・B・Cの3人が相続人だったところに、死後認知された子Dが加わるケースです。遺産が6,000万円とします。
認知前:A・B・Cがそれぞれ3分の1(各2,000万円)。
認知後:A・B・C・Dがそれぞれ4分の1(各1,500万円)。
このケースでは、子全体で遺産全部を相続する構造なので、嫡出子A・B・Cの取り分はそれぞれ500万円ずつ減少します。
ケース3:配偶者のみの相続に認知された子が加わる場合
父親に配偶者しか相続人がいないと思われていたところに、死後認知された子Aが加わるケースです。遺産が6,000万円とします。
認知前:配偶者が単独相続(6,000万円)。
認知後:配偶者2分の1(3,000万円)、認知された子A 2分の1(3,000万円)。
このケースでは、配偶者の相続分が大きく変動します。さらに、相続順位にも影響します。認知前は父親の親や兄弟姉妹が後順位の相続人として遺産分割に関わる可能性がありましたが、認知によって子(第一順位)が登場するため、後順位の相続人は完全に相続人ではなくなります。
遺産分割前に認知が確定した場合の扱い
認知された子を含めた遺産分割協議が必要
遺産分割協議がまだ成立していない段階で死後認知の判決が確定した場合、認知された子を含めて遺産分割協議をやり直す(または最初から行う)必要があります。
認知された子を除外した遺産分割協議は、共同相続人の一部を欠いた協議として無効になります。すでに協議が進んでいたとしても、認知された子を加えて協議を組み直す必要があります。
認知確定前は遺産分割手続きに参加できない
死後認知の判決が確定するまでは、子は法律上の相続人ではありません。そのため、認知の訴えを提起しているだけの段階では、遺産分割協議への参加権はなく、家庭裁判所の遺産分割調停・審判の当事者にもなれません。
他方で、認知の訴えが係属しているにもかかわらず他の相続人だけで遺産分割を進めると、認知が認められた場合に著しく不公平な結果となるおそれがあります。こうした場合、家庭裁判所は遺産分割を禁止する審判(民法907条3項)をすることがあり、また、遺産分割調停・審判の手続を中止する取扱いがされることもあります。もっとも、これらは裁判所の裁量による措置であり、認知訴訟が係属していれば自動的に遺産分割手続が止まるわけではありません。
遺産分割禁止の審判がされることがありうる
さらに、家庭裁判所は、申立てに応じて遺産分割を禁止する審判をすることができます(民法907条3項)。認知の訴えが係属している場合に、認知された子の地位を保護するためにこの審判が用いられることはありえます。
参考:民法907条
遺産分割後に認知が確定した場合の扱い
既存の遺産分割は無効にならない
認知の訴えが係属していたかどうかにかかわらず、死後認知の判決が確定する前に成立した遺産分割協議は無効にはなりません。認知された子は、遺産そのもの(不動産や預貯金)の引渡しを直接求めることはできません。
これは、遺産分割の法的安定性を維持する必要性から、民法910条があえて選択した解決です。
民法910条の価額支払請求で調整する
民法910条は、遺産分割後に認知された子について、他の相続人に対し相続分に相当する価額(金銭)の支払いを請求することができると定めています。
つまり、認知された子は、本来取得できたはずの相続分に相当する金額を、他の相続人から金銭で受け取る形になります。遺産分割をやり直すのではなく、金銭による精算で調整するのが910条の仕組みです。
価額支払請求の計算方法、請求の相手方、評価基準時、手続きの流れなどの詳細については、民法910条の価額支払請求とは?遺産分割後に認知された子の権利を弁護士が解説をあわせてご覧ください。
参考:民法910条
特別受益・寄与分と認知された子の相続分
特別受益がある場合の具体的相続分への影響
相続人の中に被相続人から特別の贈与や遺贈を受けた者がいる場合、その特別受益は持戻しの対象になります(民法903条)。持戻しを反映した具体的相続分が、最終的な分配の基準になります。
死後認知された子と他の共同相続人との関係でも、特別受益の持戻しは同じように適用されます。たとえば嫡出子の一人が父親から生前に多額の贈与を受けていれば、その分は持戻して計算するため、認知された子の具体的取り分は法定相続分どおりの計算よりも増えることがあります。
認知された子自身が父親から特別な贈与を受けていた場合は、その子の特別受益として持戻しの対象になります。
参考:民法903条
寄与分が認められる場合の調整
父親の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人がいる場合、寄与分(民法904条の2)が認められます。寄与分が認められた相続人の取り分は、寄与分の額だけ増加します。
死後認知された子も、父親に対する貢献があれば寄与分を主張できます。もっとも、認知された子が父親と長期にわたって生活を共にしていたケースは多くないため、寄与分が問題になるのは他の相続人側であることが一般的です。
参考:民法904条の2
遺言がある場合の認知された子の立場
遺言で認知された子に言及がない場合
父親が生前に遺言を残していた場合、まずは遺言の内容に従って財産が分配されます。死後認知された子の存在が遺言時点では把握されていなかったとしても、遺言自体が無効になるわけではありません。
遺言で配偶者や嫡出子に全部または大部分を相続させると書かれている場合、認知された子は法定相続分どおりの取得はできません。この場合に登場するのが、次の遺留分侵害額請求です。
遺留分侵害額請求の可能性
認知された子も、父親の子として遺留分権利者になります(民法1042条)。遺留分の割合は、法定相続分の2分の1です(直系尊属のみが相続人の場合を除く)。
遺言や生前贈与によって遺留分を侵害された場合、認知された子は他の相続人や受遺者に対して遺留分侵害額請求権を行使し、金銭の支払いを求めることができます。
遺留分侵害額請求権には、相続開始および遺留分侵害を知った時から1年、相続開始から10年という期間制限があります。死後認知された子の場合、認知の確定によって自分が相続人であることを知り、同時に遺言の存在を知ることが多いため、1年の起算点は通常、認知確定時以降となります。
参考:民法1042条
よくある質問
死後認知された子の相続分は嫡出子より少ないですか?
いいえ、同じです。平成25年の最高裁決定と同年の民法改正により、嫡出子と非嫡出子の相続分は同じになりました。死後認知された子も、嫡出子と完全に同じ法定相続分を取得します。
相続分が変わるのは誰ですか?配偶者の取り分も減りますか?
配偶者の法定相続分(2分の1)は、子の人数によって変動しません。減るのは子の側の取り分です。子が複数いる場合は、認知された子が加わった分だけ、嫡出子を含む子全員の取り分が按分により減少します。
なお、相続人が配偶者のみだったところに認知された子が加わった場合は、配偶者の取り分も大きく変動します。
認知されただけで自動的に相続財産を受け取れますか?
そうではありません。認知によって相続人としての地位は取得しますが、実際に財産を取得するためには、遺産分割協議に参加するか、すでに分割が終わっている場合は民法910条の価額支払請求を行う必要があります。
特別受益や寄与分は認知された子にも適用されますか?
適用されます。死後認知された子も他の共同相続人と同じく、特別受益の持戻しや寄与分による調整の対象になります。父親から特別の贈与を受けていれば持戻しの対象になり、父親の財産維持に貢献していれば寄与分を主張できます。
遺言で「全財産を妻に」と書いてあった場合、認知された子はどうなりますか?
遺言は基本的に有効ですが、認知された子は遺留分権利者ですから、遺留分侵害額請求によって金銭の支払いを求めることができます。法定相続分の2分の1が遺留分の割合です。
死後認知された子には遺留分がありますか?
あります。認知された子は、嫡出子と同じく父親の子として遺留分権利者になります。遺言や生前贈与によって遺留分を侵害された場合には、遺留分侵害額請求権を行使できます。
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死後認知後の相続分でお困りの方へ
死後認知された子の相続分の計算、遺産分割への参加、遺言がある場合の遺留分の処理など、認知後の相続には多くの論点があります。
認知を求める側、相続人の側、いずれの立場であっても、できるだけ早く弁護士へご相談ください。
まとめ
死後認知された子は、出生時にさかのぼって父親の法律上の子となり、相続人としての地位を取得します。
嫡出子と非嫡出子の相続分の差は、平成25年の最高裁決定と民法改正によって廃止されました。現在では、死後認知された子も嫡出子とまったく同じ法定相続分を取得します。
配偶者と子がいる場合、配偶者の取り分(2分の1)は変動せず、子の側の取り分を子の人数で按分します。認知された子が加わると、他の子の取り分が減少することになります。
遺産分割がまだ終わっていない段階であれば、認知された子を含めて遺産分割協議を行います。すでに遺産分割が終わっている場合は、民法910条の価額支払請求によって金銭で精算するのが基本的な処理です。
特別受益や寄与分も嫡出子と同じく適用されますし、遺言で取り分がない場合には遺留分侵害額請求権を行使できます。
認知された子の側でも、他の相続人の側でも、相続分の計算や遺産分割の進め方には法的な論点が多くあります。具体的な見通しを立てるためには、早めに弁護士に相談することをおすすめします。



