【この記事の要点】
- 「相続放棄」は借金も資産も一切引き継ぎませんが、「限定承認」はプラスの財産の範囲内で借金を返済します。
- 限定承認は、家などの特定の資産を残したい場合に有効ですが、手続きが非常に複雑です。
- 限定承認は「相続人全員」で行う必要があり、一人でも反対すると利用できません。
「亡くなった父には借金があるようだが、正確な金額がわからない」
「実家には母が住んでいるので、何とか家だけは残したいが、オーバーローン(資産価値以上の借金)かもしれない」
このような、プラスとマイナスどちらが多いか不明な場合や、特定の財産を守りたい場合に検討されるのが「限定承認」です。
しかし、実際の利用件数を見ると、相続放棄が年間20万件以上あるのに対し、限定承認は年間1,000件未満(司法統計)しか利用されていません。
なぜ限定承認はこれほど使われないのでしょうか?
本記事では、両者の決定的な違いと、あえて茨の道である「限定承認」を選ぶべき具体的なケースについて解説します。
相続放棄とは?基本知識と手続きの流れ
3つの相続方法の比較(単純・放棄・限定)
まず、基本となる3つの選択肢を整理しましょう。
| 項目 | 単純承認 | 相続放棄 | 限定承認 |
| 借金の責任 | 無限責任(全額払う) | 責任なし(払わない) | 有限責任(遺産の範囲内で払う) |
| 手元の資産 | すべて相続 | なし | 借金を返して余れば相続 |
| 手続き | 不要(3ヶ月放置で確定) | 家裁へ申述 | 家裁へ申述 |
| 参加者 | 単独でOK | 単独でOK | 相続人全員の同意必須 |
| 税金 | 通常の相続税 | 原則なし | みなし譲渡所得税がかかる |
限定承認の仕組み
プラスの財産(預金・不動産など)を限度として、マイナスの財産(借金)を返済します。
- 借金の方が多い場合 → 財産を全て手放せば、残りの借金はチャラになります。
- 財産の方が多い場合 → 借金を完済し、残った財産を受け取れます。
一見すると「いいとこ取り」に見えますが、次に挙げるデメリットが大きいため、利用が伸び悩んでいます。
限定承認の3つの高いハードル
① 相続人全員の結束が必要
限定承認をするには、相続人全員が共同で申立てを行う必要があります(民法924条)。
例えば、兄弟3人のうち1人でも「面倒だから嫌だ」「自分は単純承認したい」と言えば、限定承認はできません。
また、1人が先に「相続放棄」をしてしまった場合、残りの2人で限定承認をすることになりますが、足並みを揃えるのは容易ではありません。
② 手続きが複雑で時間がかかる
相続放棄は「申述して受理されれば終わり」ですが、限定承認はそこからが本番です。
- 官報公告(債権者への呼びかけ)
- 相続財産管理人による財産の換価(現金化)
- 債権者への配当・弁済
これらの「清算手続き」を自分たちで行わなければなりません。完了までに1年以上かかることもよくあります。
③ 「みなし譲渡所得税」の発生
これが最大の落とし穴です。
限定承認をすると、税法上、被相続人から相続人へ「時価で資産を売却した」とみなされます。
もし、先祖代々の土地などで「購入時より時価が大幅に上がっている」場合、実際には売っていなくても多額の譲渡所得税が発生し、準確定申告が必要になります。
この税金は借金よりも優先して支払う必要があるため、結果的に手残りが減る可能性があります。
それでも限定承認を選ぶべきケース
デメリットだらけに見えますが、以下のようなケースでは、限定承認が唯一無二の解決策となります。
① 「家」をどうしても守りたい場合(先買権の行使)
「借金で家が競売にかけられるのを防ぎたい」
限定承認には「先買権(さきがいけん)」という制度があります。
これは、家庭裁判所が選任した鑑定人が評価した価格(時価)相当額のお金を支払うことで、競売にかけずに特定の相続人がその不動産を優先的に買い取ることができる権利です。
これを使えば、実家を他人の手に渡さずに済みます。
② 借金の全容が全く見えない場合
自営業者などで、「どこからどれだけ借りているか全くわからない」「連帯保証人になっているかもしれない」という場合。
単純承認するのは怖いが、財産もそれなりにあるので放棄するのは惜しい、というケースでは、リスクヘッジとして有効です。
限定承認に関するよくある質問(FAQ)
Q.限定承認をした後で、やっぱり面倒だから相続放棄に変更できますか?
A.原則としてできません。
一度申述が受理された後は、撤回や変更はできません。熟慮期間(3ヶ月)内であれば取り下げて再申請できる議論もありますが、限定承認は他の相続人も関わる手続きであるため、事実上非常にハードルが高いとお考えください。
Q.弁護士費用は相続放棄より高いですか?
A.はい、高くなります。
手続きの工程数(公告、配当、交渉など)が圧倒的に多く、期間も長いため、相続放棄の費用(数万円〜)に比べて、数十万円〜という単位になることが一般的です。
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